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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第74話 最前線攻略者たち④ ~光の中でほどける輪郭~ 前編

3/3

 


 後詰が、ひとつ、またひとつと潰されていく。

 カルマの視線が、次の標的を捉えた。


 F班。

 物資輸送を担う、最も軽んじられた班。


 探索者の中でも最下層。

 戦うことも、発見することもない。

 ただ、荷物を運ぶだけの存在。


 それでも、彼らは必要とされた。

 ――書類の中で、だけ。


 ダンジョン攻略は国家主導の公的事業。

「子どもたちを危険に晒すな」と叫ぶ団体への、ただの言い訳。

「安全対策は万全です」と胸を張るための、飾り。

 そのために、F班は存在していた。


 討伐計画書に名前を載せた以上、動かさなければならない。

 動かしたという実績と、記録が必要だ。

 だから、彼らは今日も歩く。

 誰にも望まれず、誰にも期待されず、ただ「いた」と証明するために。


 それが、F班の全てだった。


 ◆37階層の追憶◆


「ほらよ。そこ置いとくから、勝手にやっとけ」

「広げられると邪魔なんだよ、マジで」


 ドン、と無造作に床へ落とされたアイテムボックス。

 中身の確認も、仕分けも、全部カルマの仕事。


 誰も手伝わない。

 誰も礼を言わない。

 それが、いつものことだった。


「予備の武器って言ってもさ、何でもいいわけじゃねぇんだよ!」

「回復ポーションは? 傷用じゃなくて、状態異常のやつ! わかってんの?」

「肉ばっかで飽きたんだよ! 魚! 魚素材どこだよ!」


 次々に押し寄せる要求。

 自分で探すのは面倒くさい。

 でも、文句を言うのは楽しいらしい。


「早くしろよ、ノロマ」

「お前、何のためにいるんだよ?」

「ほんと、邪魔なだけだな。いっそ消えてくれよ」


 その言葉に、カルマの手が一瞬止まる。

 指先がかすかに震えた。


 罵声は、もう慣れたはずだった。

 けれど、慣れたつもりでいただけだった。


 耳を塞ぎたくても、塞げない。

 言葉は、音としてではなく、意味として突き刺さる。

「役立たず」――その一言が、胸の奥に沈んでいく。

 静かに、確実に、心を削っていく。


 ポーションで癒せるのは、肉体だけだ。

 心の傷は、消えない。

 すり減ったまま、ひび割れたまま、ただ黙って作業を続ける。


 (回想終わり)


「・・・そういうことだったのか」


 やたらと刺々しかった理由が、いまになってようやく腑に落ちた。

 俯瞰で見ると、視野が広がるようだ。


 危険はない。

 けれど、精神はすでに限界だったのだろう。

 誰にも必要とされず、ただの飾りとして歩かされる。

 そんな日々が、心をじわじわと腐らせていく。


「・・・でもさ、それで他人に牙を剥いていい理由にはならないよね」


 痛みを知っているからこそ、許せない。

 自分がどれだけ耐えてきたか、彼らは知らない。

 知ろうともしない。


 同情なんて、するだけ無駄だ。

 もう、とうに愛想は尽きている。


 沈黙の中、ふと浮かんだ疑問が、胸の奥を揺らした。


「・・・役に立つって、なんだったんだろうな?」


 誰かのために動くこと?

 黙って耐えること?

 どちらも、もう十分すぎるほどやった。


「ああ、両方だよ」


 答えは、すでに自分の中にあった。

 そして、それを体現してくれる存在も。


『役立たず』ではない『彼ら』なら。

 カルマのために働き、命令に従い、黙って耐えてくれる。

 たとえ、どんな姿に変えられても。


「次は・・・誰にしようか」


 問いかけるような声に、迷いはなかった。

 決意は、すでに水底のように澄んでいた。


 傍らでは、白く冷たい指が、迷いなくコマンドを叩いている。

 蒼い河童が、濁った水面を揺らしながら、にやりと笑う。

 赤い舌が、ぬめりを残して地を這い、 茶色い泥の腕が、まだ見ぬ獲物を、静かに、確実に、手招いていた。


 ◇現在・・・ウィンドゥ越しの観察◇


 F班が、通路を進んでいる。

 モンスターはすでに他のパーティが掃討済み。

 周囲に敵の気配はない。

 本隊との距離も、縮まることはない。

 だから、歩みは遅い。

 気も、抜けきっていた。


「・・・ダリィな」

「言うなって。余計にダルくなる」

「俺ら、何してんだっけ?」

「レイド中だろ」

「嘘つけよ。こんなの、ただの運搬作業じゃねぇか」


 誰もが、心のどこかで思っていた。

 これは戦いじゃない。

 ただの、荷物運びだ。


「俺たちは人型ドローンだ。荷物積まれて、黙って歩くだけ」

 リーダーが、笑いもせずに言い放つ。

 その言葉に、空気が一瞬ざわついた。


「ロボットかよ!」

 突然、ひとりが声を荒げた。

 沈んでいた感情が、いきなり爆ぜる。


「頭、悪すぎんだろ!」

 苛立ちが、怒鳴り声に変わる。


「爆弾にされるよりマシだろ! 頭吹き飛ばされたいのかよ!?」

 リーダーも、堪えきれずに怒鳴り返す。

 声が通路に反響する。


 ――気が緩んでいたんじゃない。

 緩めていなければ、壊れてしまうからだ。

 張り詰めたままでは、心が持たない。


「頭だけじゃねぇ・・・全部、消された奴もいるんだぞ」

 リーダーの声が、低く、重く響く。


「ダラダラ運べてることに感謝しろ。あの荷物を積んだ奴は、もういないんだ」


 沈黙。

 空気が凍りつく。

 さっきまでの軽口が、嘘のように消えた。


「・・・それは・・・」

 誰かが口を開きかけて、すぐに閉じる。

 言ったら終わりだ。

 全員、それを知っていた。


 後ろめたさが、ようやく顔を出す。

 けれど――


 カルマの心は、冷えたままだった。


「・・・だから、何?」


 いまさらだ。

 遅すぎた。

 何もかもが。



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