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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第72話 妖怪制作③ ~泥田坊~ 後編

1/3

 


 泥にまみれた彼女の姿を見下ろしながら、そっと手を伸ばす。

 まとわりついた『余計なもの』を取り除き、その肌に、泥を丁寧に塗り広げていく。


 まるで、汚れを落とすのではなく、『新しい役割』を与えるために、泥で塗り替えていくように。


 泥遊びを楽しむような手つきで、『システム』のデータを呼び出し、編集していく。

 彼女の体、彼女たちの想い、生存の残滓、そしてその他の『素材』。


 それらすべてを、泥が吸い込み、混ざり合い、一匹の『妖怪』として形を成していく。


 もう慣れた作業だ。

 けれど、今回は少しだけ、手が止まった。


 泥の塊は、ぐつぐつと泡を立てながら形を変えていく。

 やがて、巨大なウシガエルのような輪郭を持ち始めた。


『彼女の農夫』たちは、泥の中からずるりと這い出し、その身体を腕の形に引き裂かれ、ねじられ、繋ぎ合わされていく。


 生まれたままの彼女は、泥に沈んだ姿で再構築される。

 その瞳だけが、泥の奥でかすかに光を宿していた。


 変換は静かに、しかし確実に進んでいく。

 まるで、誰かの記憶をなぞるように。

 まるで、誰かの祈りを裏返すように。


 ◇完成披露◇


「思い付きだったけど・・・意外とかわいくないか?」

 形になって伏せるウシガエルを指し示して、カルマが振り返る。


「うん。かわいいっ!」

 河童のみどりがはしゃいだ声を出す。


「か、かわいい・・・?」

 ウシガエルの異様に吞まれたように身構えて、しらゆきは目を見開いている。


「・・・泥は・・・」

 下半身がなくて、這うしかないひろは近づくこともできずにいる。


「土臭い――」

 元がお嬢様のまといは鼻にしわを寄せていた。


「・・・どろ、ね」

 生まれたばかりの『泥田坊』が身を起こした。

 裸体だが、全身の泥のおかげで肌の露出はない。

 起伏のラインははっきり見えるにしても。


 ウシガエルの背中。

 泥の腕たちが、彼女の背後でざわめく。

 それは、かつて隣にいた者たちの残滓。


 泥田坊が、わずかにうつむく。

 笑い合った、支え合った、戦った——でも、助けられなかった。


 泥に沈んだその瞬間、彼女は叫ばなかった。

 叫べなかった。

 声を出せば、喉まで泥が流れ込んでしまう気がしたから。


『人ならざるもの』に、自分がなってしまったとき。

 彼女は泣かなかった。

 泣けなかった。

 涙は泥に混ざって、誰のものかもわからなくなるから。


 今、彼女の背に伸びる腕たちは、「助けて」と言っているのか、「許して」と言っているのか、それとも「一緒に堕ちよう」と囁いているのか——わからない。


 でも彼女は、片膝を立てて座っている。

 まだ立ち上がるつもりでいる。

 カルマに手下として使われようとしていても、その膝はまだ、『自分の意志』のために曲げられている。


 彼女の目は、濁っていない。

 月明かりに照らされて、はっきりと『怒り』と『悲しみ』を映している。

 それは、仲間たちの腕が彼女を引きずり込もうとする泥の中で唯一、空を見ている目だ。


 泥は記憶の海だった。

 彼女はその中で、祈りを抱えて座っていた。


 彼女の膝は空を向いていた。

 それは、まだ終わっていないという意思だった。


 その膝は、まだ誰かを支えるために曲げられていた。

 泥の中でも、彼女は誰かのために立とうとしていた。


「名前は変えないでおこう。ぴったりすぎる名前だから」

 カルマは言った。


「ただし、美水穂はひらがなにする」

 美しい水は、もう彼女の中にはない。

 でも、みずほという響きだけは、泥の中でも残っていた


『稲田みずほ』。

 それが、新たに生まれた泥田坊という妖怪の名前だ。



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