第71話 妖怪制作③ ~泥田坊~ 前編
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(回想シーン)
「服が汚れたら可哀そうでしょ?」
遠い記憶が蘇った。
中学一年のときだっただろう。
小学校を卒業したばかり。
周辺の四つの小学校から、一つの中学校に入学してくる。
違う小学校からの生徒と知り合う機会だ。
中には友達になれる子がいるかもしれない。
小さな希望を胸に、通学し始めた頃だった。
「手伝ってくれない?」
声をかけられた。
活発そうな女の子だ。
一つ先輩だろうか?
健康的な小麦色の肌と、キリっとした目が印象的だった。
大チャンス!
一も二もなく頷いた。
そして・・・。
手伝い当日。
連れていかれたのは田んぼだ。
彼女は何代も続く農家の娘だった。
広大な田んぼを有している豪農だ。
「わたし、機械でするの嫌いなの。田植えは手植えが一番よ」
なにか強いこだわりがあるようで、稲苗の塊を押し付けられた。
その時だ。
あの言葉を聞いたのは。
言葉には続きがあった。
「汚れたらダメなものを全部剥いて放り込みなさいな」
その言葉が合図だった。
オレ以外に参加していた、先輩らしき男女が、笑いながら近づいてくる。 逃げようとした足を掴まれ、腕を引かれ、制服のボタンが外されていく。
「ちょっと、やめ・・・っ」
抵抗の声は、笑い声にかき消された。
気づけば、肌に風が触れていた。
田んぼのぬかるみに投げ込まれた瞬間、冷たい泥が背中を這い、髪を、顔を、口元を覆っていく。
泥の重さが、体を沈める。
息をするたび、鼻の奥に土の匂いが入り込む。
「そうなっちゃえばもう、転ぼうがどうしようが問題ないわね」
満足そうにうなずいた彼女は、思い出したように言葉を継いだ。
「転ぶのはいいけど、植えた苗を折ったらただじゃおかないからね!」
ギロリと睨まれたその目に、冗談の色はなかった。
泥にまみれたまま、オレは立ち上がるしかなかった。
体の芯まで冷えていた。
でも、もっと冷たかったのは、誰一人としてそれを『おかしい』と思っていない空気だった。
「さ、始めるわよ」
田んぼの中で、オレはただの『道具』になった。
服を脱がされ、名前を呼ばれず、感情を奪われた。
その日から、泥の感触は、ただの自然のものではなくなった。
(回想終わり)
◇現在◇
なぜそんなことを思い出したのか?
防御陣の一角で、土に埋もれた一団を発見したからだ。
九大魔女が一人、『土属性』の『稲田美水穂』と、その農夫たち――下っ端どもだ。
彼女は九大魔女に名を連ねているが、攻撃よりも防御。
それも拠点防衛に特化した魔法使いだ。
最前線に立つよりも、後衛向きの能力。
だから、ここでの防御に回されていた。
「いいね。水魔法の第一人者の次は土魔法か」
顔がにやけてしまう。
もう、作る妖怪は決定だ。
『泥田坊』。
北国に住む翁が、子孫のために田を買って耕作し、その田を遺して亡くなったが、その息子は農業を継ぐどころか酒を飲んでばかりで果ては田を売り払ってしまい、その後、夜な夜な田に一つ目の者が現れ「田を返せ、田を返せ」と罵ったとある。
これが、出典だ。
これ以外には何の伝承も残っていないそうだけど、小説の題材になったりしているので学校の図書館にはその本があった。
舞台が地元なのだ。
「田んぼが好きだったんだし、本望でしょ?」
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




