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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第70話 最前線攻略者たち③ ~祈りを切り落とす剣~ 後編

2/3

 


 パーティを置き去ってわずか数分。

 その数分が、命取りだった。

 もし、あの時飛び出していなければ。

 もし、あの時迷わなければ。

 頭の中で「もし」が渦を巻く。


 リーダーが合流を果たした時、パーティは既に半壊していた。

 視界は赤く染まり、耳には静寂がある。

 自分の呼吸と、鼓動が聞こえるだけだ。


 落ちた武器、裂けた布、血の跡。

 それらが、確かにここに『誰か』がいたことを語っていた。

 確かにここいた。

 それは確かだ。


 通路の床に転がる『見覚えのある形』を見て、彼女は息を呑んだ。

 それが何かを確かめる前に、心が拒絶した。


「・・・嘘、でしょ」

 目を逸らした先にも、赤が広がっていた。


「この!」

 沈んでいた『仲間の痕跡』をモンスターが狙っている。

 取り戻そうとした動きが、空を切る。


「クッ!」

 悔しいが足を止めるわけにはいかない。


『痕跡』は、今はいい。

 今は、『生きている』仲間を守る。

 枝葉ではなく、幹を。

 それが、今の自分にできる唯一の償いだ。


 静寂に沈む通路の奥。

 微かに届く音、そして声。

 彼女のパーティはまだ戦闘中だった。


 まだ、終わっていない!

 緩みかけていた足を鼓舞して進んだ。



 通路のうす闇の先。

 仲間たちのシルエットがおぼろげに確認できた。


 整った陣形を保っている。

 サブリーターの苦心が窺えた。


 あの陣形ならまだもつ。

 まだ間に合う!


 リーダーは更に加速した。


「エ?」

 脳が思考を止め、無意味な声が漏れ落ちた。


 整えられていた陣形が、一瞬で弾けた。

 直径3メートルにもなろうという大玉が転がってきて、パーティメンバーが激しく押しのけられた。

 勢いの強さに、少女たちが枯葉のように宙を舞う。

 そこへ、影が押し寄せようと蠢いている。


「や・め・ろー!」

 刀身が短く、幅の広い剣を抜き放ち突貫する。


 迎え撃とうというのだろう。

 何か大きなものが、空気を押し退けて迫ってくる。


「邪魔をするな!」

 それがなんであれ、怯むものか!

 剣で振り払った。


 サクッ!

 意外に軽い音がして、何かを切り落とせた。


「あぐ!」

 短く、苦しげな・・・声?


「え?」

 人の・・・声?


 視線を向けた先で、仲間が巨大トンボに捕まれ、宙に引きずられていた。

 制服の袖が裂け、腕の先が・・・なかった。


 地面に落ちた『それ』は、まだ指先が微かに動いていた。

 助けを求めて伸ばされた手。

 その祈りは、届く前に風に散った。


「そ、そんな・・・」

 リーダーは膝を折り、剣を握る手が震えた。

 呆然として、動きを止めたリーダー。


 その小さな体が横からの衝撃で宙を舞う。

 仲間の一人を前足で引っ掛けて振り回したフンコロガシさんによって。


 躱そうと思えば、できた。

 だが、そのためには、振り回されている仲間の身体を剣で受け止めなければならなかった。 自分の手で、仲間を斬ることになる。


 その一瞬の逡巡が、すべてを決めた。


「あ、あぐっ!」

 肋骨が軋む音がした。

 視界が揺れ、地面が遠ざかる。


 なんとか立ち上がろうとした足首を、何かが掴んだ。

 次の瞬間、身体が宙を舞う。


 眼下に、サブリーダーの姿が見えた。

 動かない。

 その周囲に広がる赤が、彼女の無事を否定していた。


 空気が沈む。

 音が消える。


 自分の身体が、仲間を襲うための『武器』として使われようとしている。


「やめて・・・お願い・・・!」

 手足を振るが、空を切るばかり。


 唯一できたのは、手にしていた剣を手放すこと。

 それは、戦うことを放棄し、仲間を傷つけないという選択だった。


 その瞬間、彼女の『生』への可能性は、静かに潰えた。

 リーダーは振り上げられ、振り下ろされる。

 二つの影が床に叩きつけられ、交わり、崩れていく。

 光と影が交錯し、沈黙がすべてを包み込む。


 リーダーに残されたのは、仲間と運命を共にするという、ただそれだけの選択だった。


 ◇観察者視点◇


「美しい終わり方ね。音は雪に消えるものなの」

 しらゆきは、そっとウィンドウを切り替えた。


『次』を探すために。

 雪を降らせる舞台を求めて。


「彼女たちから、報酬は受け取れましたか?」

 しらゆきが確認してくる。


 未払いの報酬があった。

 それを回収すると言ったのを覚えていたようだ。


「ああ、充分に」

 彼女たちの記憶が、迷宮の演出に変わる。

 それが、報酬だった。


「今度は、誰にスポットライトを当てましょうか?」

 しらゆきは、ウィンドウに映る少女の顔を見つめた。

 その瞳に、かつての自分の影が揺れていた。


「誰でもいいさ。ただ、悲鳴が綺麗に響く子がいいだろうね」

 さぞや、美しい鎮魂歌を聴けることだろう。



読了・評価。ありがとうございます。


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