第69話 最前線攻略者たち③ ~祈りを切り落とす剣~ 中編
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◇現在◇
「ああ、そうか」
ポン! と手を打った。
「もらい損ね続けていた報酬をもらうときが来たんだな」
彼女たちの存在が、そのまま報酬と言える。
ダンジョンの性質上、永遠に働いてもらえるのだ。
「大丈夫。数日で何も感じなくなるさ」
『ダンジョン属性』を『学園祭』として、モンスターを『妖怪』にする。
虫の養殖は止めるから、負担が少なくなるのだ。
現行の者たちよりは楽なはずだろう。
「しらゆきちゃん、作戦開始!」
「了解。静寂の幕を、今、開けます」
雪女が、ウィンドウを叩き、虫たちを配置する。
『お客様』のおもてなしが始まった。
もらい損ね続けていた報酬を、ようやく受け取る時が来た。
彼女たちの存在そのものが、供物として熟しきった今——もう、誰にも止められない。
◇崩れる一歩◇
「この先の通路は、まだ見てなかったよね」
アイパッド片手に、そう言ったのは後詰C班、通称『マップ埋め係』のリーダーだった。
探知スキル持ちの小柄女子である。
彼女の役目は係名の通り、未踏破の通路を発見・確認してマップを埋めることだ。
有益な採取物や鉱物が見つかる可能性もある。
マップ埋めは必要なことなのだ。
「なにか貴重なものがある予感がしますよー!」
ニヒヒッと笑い、発見した通路へと飛び込んだ。
「待ってくださーい!」
リーダーが探知に集中する間、壁となってもスターの相手をしていたメンバーが悲鳴を上げた。
場所は64階層。
E班メンバーには少々荷が重い。
そこへもってきて、属性変化のこともある。
だいいち、場合によっては初見のモンスターもいる。
気が抜けない戦闘の連続だった。
階層踏破の正規ルートから外れたところでの活動であるため、先駆けの露払いの恩恵が皆無なのだ。
「お宝さがしとなると、見境が無くなるんだから、あの子は!」
苦労人のサブリーダーが、グチをこぼしつつ最後のモンスターを斬り伏せた。
「さっさと追いかけるわよ!」
「人使い荒い—!」
「鬼―!」
メンバー全員が女子という珍しい構成のE班ならではの、黄色い声が飛び交うが動きは速い。
すぐにリーダーの背中を追って走り出した。
◇
「おおっと。カミキリムシさんですか! 聞いてますよー。水魔法が弱点になったんですって?」
語尾を上げ、問いかけるように言いつつ、手には水でできた魔法が用意されている。
探知が得意な彼女だが、特化しているわけではない。
まともに戦うこともできる。
使える魔法は水と火。
そのことが、彼女を救った。
「え?」
胸元に熱い痛みが走った。
水魔法が命中したはずなのに、カミキリムシの鋭い脚が彼女の肩をかすめ、制服の布地を裂いた。
肩口からじわりと赤が広がる。
熱い液体が、制服の内側を伝って肘まで垂れた。
「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
属性が逆になっているなら、致命的なダメージが入っているはずなのに。
「なら、こっちは?」
同じく、手の平に火の魔法を用意。
投げつける。
今度もいいところへ当たった魔法がカミキリムシを消し飛ばした。
「なによ。逆じゃないじゃない!」
聞いていた話と違う!
憤慨したリーダーだが。
直後に青褪めた。
「あの子たちじゃ対応しきれないかも!?」
属性が逆になっていると聞き、対策をとった。
カミキリムシで言えば、接敵と同時に水属性魔法の使い手が前に出て、火属性魔法の使い手は後方に下がるというものだ。
姿を見た瞬間に苦手な属性の魔法で囲む、止めて嵌め殺す。
それが後詰E班の戦術。
これで確実に勝ってきた。
事前に属性情報があること前提の戦い方だが、今回のように先行して情報集めする味方がいれば、推奨レベルに達していない彼女たちでも立ち回れる。
荷が重くても、やっていける。
もちろん、自分たちでも属性の変化については検証した。
そして、事実だと確認できたから、行っている戦術だ。
なのに、その前提は崩れた。
属性情報が当てにならない。
「ヤバッ!」
リーダーは道を引き返した。
今来たばかりの通路の奥で、何かが動いていた。
音は聞こえていない。
ただ、空気の質が通った時と明らかに異なっている。
通った時は感じなかった、湿ったような、腐ったような匂いが鼻をついた。
「・・・誰か、いる?」
返事はない。
背後から、じっとりとした視線が肌を這う。
振り返っても、そこには何もいない。
けれど、心臓の奥が警鐘を鳴らしていた。
通路に響く足音が、何か違って聞こえてくる。
なにかが、ひたひたとついてきている感覚を拭えない。
「間に合え・・・お願い、間に合って!」
喉が焼けるように痛い。
息が続かない。
けれど、足は止められない。
止まったら、何かに喰われる気がした。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




