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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第68話 最前線攻略者たち③ ~祈りを切り落とす剣~ 前編

3/3

 


「次の獲物が決まらない?」

「隙のある所から抜いていく、意味は分かるけど『隙』というものが曖昧過ぎるわ」

 ウィンドウ上にマルチウインンドウになった映像を見据えて、しらゆきが言う。


「ああ。いいのがいるじゃないか」

 ウィンドウに目を落として、カルマはすぐにパーティを一つ指さした。


「マップ埋め係?」

「彼女らの適正探索階層は55より下になっていたはずだ。なのに64階層のマップ埋めをさせられている。崩せば一発で沈むよ」

「そんな簡単にいく?」

「いく」

 確信のこもった頷き。


 カルマは何度かこのパーティに参加したことがあった。

 その経験が、狙い目だと言っていた。


 ◆30階層の追憶◆


「さっさとする!」

 後ろからケリが入った。


 パーティのサブリーダーだ。

 リーダーが先に行ってしまったので早く追いつきたいらしい。


「あの高慢ちきのための気が進まない採取クエスト。ただでさえイラついてんだから手間かけさせんな!」

 元から苛立っていたようだ。


 それでは機嫌の回復は望めない。

 今日は一日こんな調子なのだろう。


 彼女たちはモンスター討伐よりも、採取や採鉱で稼ぐタイプ。

 これまでも何度かクエストに同行したことがある。

 校内の他パーティや郊外のスポンサー企業から依頼されて、特定のアイテムを規定量集めて納品するというものだ。


 目的物を見つけるために探知。

 採取や採掘にもそれぞれにスキルを使う。

 量が多かったり、時間がかかるものだったりすると『無限魔力』を当てにされて、駆り出されるのだ。

 普段は気の合う同性ばかりのパーティで活動しているため、たまにこうして異物が入ると・・・かなりヒドイ。



 ホラネ。


 採掘場に来た途端。

 掘り出された鉱物が飛んできた。


 硬く、それなりに重い石。

 一つ一つ運ぶのは手間だ。

 わかりやすい位置決めをして、投げるのは道理に合っている。


 位置を決め、円状にラインを引く。

 手間だ。


 床はダンジョン。

 アスファルトではなく、コンクリートでもない。

 腐葉土を固めたような土となっている。

 ラインは引けない。


 かといって土をえぐっただけでは明るいとは言えない中での視認が難しい。

 ハッキリと視認できて、投げ損なってもその場に落としてくれる壁があるのが望ましい。


 その壁の登場で、手元に貯めていた物を降らせている。

 そんな場面だ。


 跳ねた石が当たるが、彼女たちは気にしない。

 それでも、誰も気にしない。


 彼女たちも、壁も。

 そして、自分も、気にしないふりをした。

 痛みよりも、無視されることのほうが、ずっと冷たかった。



「ほら! さっさと集めて!」

 アイテムボックスを渡された。


 大きさや品質で揃えて袋詰め、アイテムボックスにも入れていく。

 けっこう手間のかかる作業だが手伝っては貰えない。


「早くしろよ、ノロマ!」

「グズグズしない!」

「サボんな!」

「働けよ!」

 地面に膝をついて作業をしていると採掘の終わった者たちに取り囲まれ、作業の間は言葉ではない侮辱が与えられ続ける。

 頭上からクスクス笑いが降り注いだ。


 本気の罵声ではない。

 ふざけているだけの嘲りではある。

 しかし、人数と回数が多い。

 地味だが、確実にダメージが蓄積されていく。


 ◆


「いやー、役得だね!」

「テンション上がってるー?」

「もしかして、何か浮かせてない?」

「それはアヤシイ」

「それはコワイ!」

「「「「「キャハハハハハハハ!!!!!」」」」」


 笑いが降り注ぐ。

 それは、音の雨。

 羞恥を濡らすためだけの水滴。


 鉱石の選別と収納が終われば、次は魔力の補充。

 顔や背中に、言葉にならない侮辱が降りかかる。

 触れられていないのに、肌がざらつくような感覚。

 視線が、笑いが、空気が、身体の輪郭をなぞってくる。


 やられることは、同じ。

 ただ、石から声になっただけ。

 物理の痛みが、音の痛みに変わっただけ。


 報酬はない。

 残るのは、侮辱の痕跡だけ。

 それは、染みのように、跡のように、肌の裏に残る記憶。


 魔力を補充する所作は、祈りの模倣に似ていた。

 けれど、そこに祈りはない。


 信仰のない儀式。

 意味のない奉仕。

 報われない所作。


 彼女たちは、笑っていた。

 その笑いは、誰かの羞恥で温まる焚き火。

 その火に、魔力という名の供物をくべる。


「早くしろよ、ノロマ!」

「グズグズすんなって!」

「サボってんじゃねーよ!」

「働け、働け!」


 言葉が、肌を叩く。

 笑いが、背中を這う。

 魔力が、搾り取られる。


 地面に膝をついて作業をしていると、採掘の終わった者たちに取り囲まれる。

 その間、言葉ではない侮辱が、空気の中に満ちていく。


 頭上から、クスクス笑いが降り注ぐ。

 それは、雨ではない。

 それは、唾液でもない。

 それは、祈りのない『快楽』だった。


 本気の罵声ではない。

 ふざけているだけの嘲り。

 けれど、人数と回数が多い。


 地味だが、確実に、羞恥と疲労と空虚が、身体の奥に蓄積されていく。



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