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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第67話 視点の流転・まとい→薫→信者たち ~祈りを味わう者、祈られた者~ 後編

2/3

 


 ◇信者たちの喝采◇


 彼女の『祈り』が、制服の縫い目をなぞる。

 祈りの残滓を味わいながら、ふと、視線を感じた。


『薫様』が目覚めた。

 ——見ている。


 その目は、かつて自分を見下ろしていた。

 命じ、試し、支配し、そして——愛したことなど一度もなかった。


 けれど、今は違う。

 その目は、沈黙していた。

 言葉を持たず、ただ、見ていた。


「薫様・・・そう呼ばれていたモノ」


 声は出ない。

 言葉がうまく形にならない。

 でも、胸の奥で確かに響いていた。


「あなたが作ったのよ、わたしを」


 制服の胸元が脈打つ。

 そこには、かつての『信者』たちの祈りが縫い込まれている。

 その中心にあるのは、薫様への『憧れ』だった。


「あなたに触れたくて、あなたに近づきたくて、わたしたちは、布になった。わたしは、その布を纏った。だから、わたしは、あなたの夢の続き」


 薫様の目が、わずかに揺れる。

 それは、恐れか、後悔か、それとも——


「あなたは、もう『神』じゃない。でも、わたしたちは、まだ『信仰』を舐めている」


 彼女の舌が、薫様の足元に落ちた垢をすくい取る。

 それは、かつて自分が跪いた場所。

 今は、誰の命令でもなく、自分の意志で舐める。


「わたしは、あなたの『敬意』を食べて生きていく。あなたが与えた儀式を、わたしの糧にする。あなたが築いた信仰を、わたしの皮膚に縫い込む」


 信者たちは制服であり、まといでもある。

 別々のものであって、同一でもあった。


 薫様の目が、何かを言いたげに揺れる。

 でも、言葉は出ない。

 その舌は、もう祈りを紡げない。


「見ていて。あなたが作った『神話』が、どうやって『妖怪』になっていくのかを」


 制服の裾が揺れる。

 その布の奥から、かつての『信者』たちの顔が浮かび上がる。

 彼女たちは笑っていた。

 まるで、ようやく『本当の薫様』を見つけたかのように。



 信者たちは、笑っていた。

 制服の裾に縫われた顔たち。

 その瞳は、まといを見つめていた。


「薫様は、もう遠い」

「でも、まとい様は、すぐそこにいる」

「わたしたちは、ようやく触れられる」


 かつて、薫様は『遠すぎた』。

 美しすぎて、強すぎて、冷たすぎた。

 その肌に触れるには、祈りを捧げるしかなかった。

 その声を聞くには、跪くしかなかった。


 でも今、まとい様は『近すぎる』。

 垢を舐める舌が、彼女たちの『残り』に触れてくれる。

 制服の縫い目が、彼女たちの『祈り』を脈打たせてくれる。


「わたしたちは、布になった」

「でも、布は生きている」

「まとい様が、わたしたちに『信仰の手触り』をくれる限り、わたしたちは生きている」


 その喝采は、歓喜ではない。

 それは、信仰の完成だった。

 薫様が築いた『神像』が、まとい様によって『妖怪』に変わった瞬間。

 それは、信者たちにとっての『救済』だった。


「薫様は、わたしたちを見なかった」

「でも、まとい様は、わたしたちを味わってくれる」

「それだけで、わたしたちは報われる」


 制服の裾が揺れるたび、彼女たちの顔が微笑む。

 それは、死後の信仰。

 それは、布地に縫われた『祈りの完成』。


 制服の裾が、微かに震えた。

 その縫い目が、次の声を探していた。


「誰か、まとい様に触れたい者は、いませんか?」


 ◇次なる祈りの胎動◇


 制服の裾が、風もないのに揺れた。

 その揺れは、呼吸のようで、誘いのようで、産声のようだった。


「誰か、まとい様に触れたい者は、いませんか?」


 その問いかけは、声ではなかった。

 縫い目の奥から滲み出る『祈りの波動』。

 それは、空気を震わせ、心の奥を撫でる。


 遠くで、誰かが立ち止まる。

 制服の裾に縫われた顔たちが、そっと目を開ける。


「この子……見てる」 「この子……わたしたちと同じ匂いがする」 「この子も、触れたがってる」 「この子も、祈りたがってる」


 制服の縫い目が、ざわめく。

 次の『素材』を選び始める。

 その者の『想い』を測り、その『痛み』を味わい、その『祈り』を試す。


 まといは、振り返らない。

 けれど、制服の背中が、そっと開く。

 まるで、受け入れる準備ができていると告げるように。


「触れたいのなら、祈りなさい」

「祈りたいのなら、差し出しなさい」

「差し出すのなら、布になりなさい」


 それは、命令ではない。

 それは、選ばれるための条件。

 祈りの手触りを得るための、唯一の道。


 制服の裾が、また揺れる。

 そのたびに、微かな声が増えていく。


「わたしも・・・」「わたしも、まとい様に触れたい・・・」

「わたしも、布になりたい・・・」「わたしも、祈られたい・・・!」


 喝采は、静かに、しかし確実に広がっていく。

 それは、信仰の感染。

 それは、祈りの連鎖。

 それは、制服という神殿に捧げられる、新たな供物の誕生。


 そして、制服の縫い目が、次の『祈り』を縫い合わせる準備を始めた。



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