第63話 誕生『縫緋まとい』~祈りを纏う者、声を縫う衣~ 前編
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「これからは、君がオレに敬意を捧げるんだよ」
顔を上げさせ、真摯に説いた。
輝いていた神像は泥に埋もれ、歪んでいた。
水の防壁を張っていたようだ。
それが、派閥の女子たちによって乱されて様子がうかがえた。
意図的に邪魔されたということではなく。
良かれとしたフォローに足をすくわれた。
魔力の流れの残滓が、そんな風に見えている。
『水神の流れ、信者の手を知らず』。
そんな故事成語ができそうだ。
かつては崇められていた彼女。
舌を巧みに動かす彼女が、今は儀式の中で沈黙を守る側となった。
まさに『神像』というところだ。
さて、舌を動かすと言えば、この『妖怪』!
もうなににするかは決まっていた。
水に愛され、水に呪われたのが彼女だったわけだし。
『垢嘗』さん、である。
夜中の風呂場に侵入して、洗い残しの垢やカビを舐めとる妖怪だ。
一般に『赤い肌で醜い顔、長い舌で風呂桶をペロペロ嘗める』そう言われている。
風呂場、つまりは水場の妖怪なのだ。
水魔法がさらに得意になってくれることを期待したい!
「さーてと。今回もビジュアルにはこだわりたいよね~」
しらゆきちゃんが素晴らしい出来だったからね!
アイテム制作機能で、装備品も作れるのはありがたい。
「君たちにも、手伝ってもらおうかな~?」
倒れ伏す『薫様』の取り巻きたちを見下ろしながら、 静かに、けれど確かな声で告げる。 『蒼の抱擁』。
薫様を中心に構成された、信仰と忠誠のギルド。
その名の通り、『抱擁』は逃れられない拘束でもあった。
『妖怪』には『指定制服』が基本衣装とする。
これは、沢辺みどりで定めた規則。
『探索者』と同じく、制服は『役割を纏うための外殻』。
だから、アカナメさんにも制服を着てもらう。
ただの衣装ではない。
祈りと記憶を縫い合わせた、儀式の布。
それは、ただの装備ではなく、ひとつの存在。
制服を仕立てながら思う。
この布もまた、妖怪だ。
縫い目の奥に、声がある。
記憶がある。
祈りがある。
やっていることは、ゲームのキャラクリ。
けれど、針を通すたびに、何かが目覚めていく気配がある。
キャラクターには、背景が必要だ。
それが、深みをもたらす。
そしてこの制服は、信仰の証であり、犠牲の記録でもある。
縫い目のひとつひとつに、かつて薫様を崇めた少女たちの『崇拝の証』が刻まれていく。
布らしきナニカ。
それは、物質化した想いの残滓。
毛穴は記憶を語り、血管は祈りを流し、遺志在る者の顔が、布地に浮かび上がる。
それは、次の犠牲者を待つ『目』。
制服は、ただ着られるものではない。
着る者を選び、染め、喰らい、語る存在。
制服の繊維は、もはや通常の布ではない。
それは、物質化した信仰と記憶の織り糸。
祈りの残響が絡まり、想いの断片が撚られ、『着る』という行為そのものが、儀式の始まりとなる。
着用者と融合することで、制服は目覚める。
記憶を吸収し、縫い目が脈打ち、布が呼吸を始める。
まるで、肌の下にもうひとつの命が宿ったかのように。
それは、信者たちの想いが反映された証。
祈りの温度、忠誠の重み、沈黙の痛みが、一針ごとに刻まれている。
この制服を着る者は、もう人ではない。
彼女は、かつて『信者』と呼ばれた少女たちの信仰を束ね、その身に纏うことで、『象徴』へと変わる。
胸元の縫い目は、儀式のたびに増えていく。
それは、新たな祈りが縫い込まれた証。
制服は、記録し続ける。
誰が、いつ、どんな想いで、誰に捧げられたのかを。
呼吸の名残は今も健在。
血の管のような紅の縫い目が、月光に脈打つ。
制服の布地に浮かぶ顔は、かつて彼女を讃え、祈り尽くし、そしてそのまま『布』となった者たちの魂の残滓。
彼女が動くたび、縫い目がささやく。
「次はどんな『想い』を縫い合わせる?」
その制服は、崇拝の証。
そして、永遠の契約。
崇拝は、物質を伴って切り取られる。
純粋な想いが、穢れに染まる前に。
崇拝対象に近づかんとした彼女たちの意思を、『霊布』へと昇華させるために。
それが、『シルクスキン』。
信仰と記憶が織り込まれた、語る布。
それは、ただの素材ではない。
意志を持ち、選び、記録し、そして喰らう。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




