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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第62話 妖怪制作③ ~垢嘗め~ 後編

3/3

 


「薫様」


 外から、声がかかった。


「どうぞ、お入りなさい」


 布の向こうから、女生徒が顔を覗かせた。

 その瞬間、彼女の表情がわずかに揺らぐ。

 儀礼の最中であることに気づき、視線を逸らす。


「も、申し訳――」


「うふふ、ちょっとした儀礼の途中なのです。気にしなくてもいいのですよ? ですので、謝罪はいりません。それで、緊急のご報告ですか?」


 薫様の声は、水面に落ちる一滴のように静かで、波紋を広げる。

 その場の空気が、再び儀式の流れに引き戻される。


「あ、いえ。『火の舞踊』が『風の芳香』と秘密裏に会合を開いているとの情報が入りまして、その報告です」


「彼女らは資金収集を第一に掲げていたのだったかしら? ん〜。お金なんて、あまり興味はないですね〜。放っておいてもよいのではないかしら? よくよく考えると繋がりを維持するメリットってないのですよねぇ〜。ん〜・・・影響力の問題ってだけですものね~」


 薫様が眉を寄せる。

 その動きに合わせて、足がわずかに揺れた。

 ただそれだけで、空気が張り詰める。

 言葉の響きが、儀式の静けさに波紋を落とす。


 所作が乱れそうになる。

 けれど、ぐっと意識を整える。

 この空間では、沈黙すらも『捧げ物』。

 オレは、ただ敬意を示し続ける。


 薫様の輪郭が、意識の中に焼きついていく。

 視線を交わさずとも、彼女の存在が内側に染み込んでくる。


「『火の舞踊』・・・沙羅は、どうしたものですかねぇ? 彼女も実家が傾いてからは『お金、お金』とうるさいですからね~。お爺様が下請けを買収しまくったからって恨まれましてもね~。敗者は敗者らしく、屈辱に甘んじていればよろしいのに」


 片頬に手を当てる仕草。

 その指先は、慈悲と冷笑を同時に宿していた。


「ダンジョンも『中層』に入る頃合いですし、そろそろ次の段階に入るとしましょう!」


 薫様の声が、空気を導く。

 まるで、儀式の進行を告げる巫女の鈴の音のように。


「——というわけで、まずは露払いですね。『黒の剣士』にでも任せますか。私に『レアアイテム』を持ち帰る役回りとなれば『彼』なら喜んで引き受けるはずです。ええ、では私の指示通りに」


「かしこまりましたっ」


 女生徒が恭しく一礼する。

 その姿は、信者が神託を受け取る瞬間のようだった。


「ふふ」


 薫様が、わずかに身体の位置を変える。

 足が静かに交差する。

 それだけで、空気が再び張り詰める。


 儀礼の次なる段階が、音もなく示された。

 その動作は、神聖な流れの一部。

 言葉よりも雄弁に、支配の継続を告げていた。


「・・・・・・」


 まだ、終わらない。

 終わりの時を知るのは、薫様だけ。

『尊き御身』の儀式は、意志が尽きるまで続く。


 ◇


 テントを出た瞬間、空気が変わった。

 湿度が上がったような、視線が肌にまとわりつくような感覚。

 薫様の取り巻きたちが、静かに並んで待ち構えていた。


 誰も言葉を発さない。

 けれど、その沈黙は無関心ではなく、儀式の延長だった。

 視線だけが、鋭く、重く、カルマの手元に突き刺さる。


 その中の一人が、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 年齢は同じくらい。

 制服の袖口をきちんと整え、髪も乱れなく結ばれている。

 その整いすぎた姿が、逆に異様だった。

 まるで、祈りのために作られた人形のように。


「薫様に、触れたのですね?」


 問いではなかった。

 それは、確認と羨望と、選ばれなかった者の痛みが混ざった声。


 彼女の目は、カルマの手元に注がれている。

 その視線は、触れた手ではなく、『薫様の残滓』を見ているようだった。


「・・・はい」


 答えた瞬間、彼女はそっと手を伸ばしてきた。

 その指先は、神聖な器に触れる巫女のように、慎重で、震えていた。


「少しだけ・・・薫様の気配を、感じさせてください」


 その言葉に、周囲の取り巻きたちがわずかに息を呑む。

 誰も止めない。

 むしろ、それが『正しい手順』であるかのような空気が漂っていた。


 指先が触れた瞬間、彼女は目を閉じた。

 まるで、神前で香を焚くように、静かに、深く。


「・・・ああ、薫様・・・」


 その声は、祈りだった。

 カルマの手は、ただの媒介。

 薫様の気配を宿した“聖遺物”に過ぎない。


 彼女たちにとって、薫様は触れることすら許されぬ存在。

 だからこそ、触れた者に触れることが、唯一の接触手段だった。


 カルマは、何も言えなかった。

 ただ、手を差し出したまま、沈黙の中に立ち尽くしていた。

 自分が『通路』でしかないことを、骨の奥で理解しながら。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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