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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第55話 妖怪制作② ~テケテケ~ 後編

2/3

 


『私』は今、地面に仰向けで横たわっている。

 そう言っていいのだろうか?


 へその上から下が無くなった身体だ。

 驚くほど小さい。


 でも。

 腕で這うことになるのに、胸が邪魔ね。

 もう少し大きくなってほしいって思ってたはずなのに。

 今はなくなってほしい。


 どうせ体が半分になったんだ。

 これも切ってしまえばいいのに。

 でも、それはもういい。



「ここなら、もう苦しまなくていいのね」

 これが、『妖怪』としての最初の言葉だった。


「そうだね。苦しむ必要はないね」

 『マスター』が頷いた。


 腹から下がないのは仕様になった。

 痛みなんてないはずだ。

 『妖怪』には苦痛も悲しみも学校もないのだから、と。


 そう言って笑いかけてくる。

 横には『彼女』もいて、ガラス玉のような目を向けてきていた。


 そして・・・そして?


 ありえないことに寒気がした。

 『彼女』の腰にある・・・ううん。

 『いる』、あの虫は何?


 白いふわふわな、ストラップみたいな『アレ』は何?!


 怖気が走る。

 コワい!


 その虫が、フワリと飛んだ。

 ゆっくりと、下りてきて・・・地面に投げ出されているモノにとまった。



『ソレ』が、ふわりと舞い降りたその瞬間。

 気が付いた。

『アレ』は『彼』なのだと。


 あの足。

 私の足を褒めてくれていた。


 陽の光を跳ね返す、しなやかな筋肉。

 走るたびに空気を裂く、誇りある形。


 そんな風に褒められたから、笑って見せつけていた。

 あの足。


 彼の視線が、どれほど熱を持っていたか。

 わたしは覚えている。


 でも今は違う。

 血に濡れ、動かないその足。

 まるで『供物』のように横たわっている足。

 そこで、『彼』は翅を休めている。


「食べてしまいたい」

 そんな言葉が、不意に思い出された。


 あれは、比喩ではなかった。

 本気だったんだ。


 彼の体は雪に包またように美しい。

 でも、心は飢えていたのだ。


 わたしの命の残り香。

 生きていた証。


 彼は抗い得ず吸い寄せられている。

 その足を、わたしを、自分のモノにしようとしている。


 雪虫は、そっと足に口づけた。

 それは、愛でも、哀れみでもない。

 ただの、渇望だった。


 あれは、わたしの足。

 誰よりも速く走れた。

 誰よりも高く跳べた。

 誰よりも、彼に見せたかった。


 なのに。

 今、あの虫が、わたしの足に顔を埋めている。


 音がする。


 しゃくしゃくと、柔らかい肉を噛む音。


 わたしは、彼がかつて言った言葉を、そっと思い出していた。

「君の足、風みたいだね」。

 その言葉が、 今、しゃくしゃくと消えていく。


 わたしは叫べない。

『人間』ではないから。


『アレ』と同じ。

 化け物だから。


 でも、心が叫んでる。

「やめて」って。


「それは、わたしの誇り、わたしの生きた証よ」って。

 でも、彼は止まらない。


 雪虫は、わたしの足を喰らう。

 まるで『愛してる』って言ってるみたいな顔で。


 そばで、『雪女』が何も言わず。

 ただ静かにその光景を見つめていた。

『食べるほどに求められる』ことに、嫉妬めいた気持ちがあったのかもしれない。



 気持ち悪い。

 そして、哀しい。


 わたしの足が、誰かの欲望で消えていく。

 生きていた証が消えていくような感覚。


 あれは、わたしの足。

 間違いない。

 膝の傷も、ふくらはぎの筋肉の形も、全部覚えてる。


 走るたびに風を切って、彼に褒められた。

 心が崩れていく音がする。


 わたしは、『妖怪』になった。

 足は『人間』のまま葬られるのね。

 食べられることで・・・。




「テケテケの完成です!」

『ダンジョンマスター』がそう告げた。


 その言葉が、 私の耳に届いたとき、

 一瞬だけ、 心が叫んだ。


『違う』って。

 でも、 声は出なかった。

 その声は、雪の下に沈んでいった。

 もう、 人間じゃないから。


 私の名は『テケテケ』となった。


 ——と思ったんだけど・・・?


「んー・・・『園下ひろ』、かな?」

 名前を貰えた。


『園下ひろ』。

『園』はもともとの名前からかな?


 で、『下』はなんとなくわかるかな?


『ひろ』は何だろう?

 空間が『広く』空いているから?


 わからない。

 でも優しい響き。


 私は『園下ひろ』になった。


 ◇


「ひろちゃん、ひろちゃん」

 カルマが背を向けると、ゆ・・・しらゆきと誰かが寄ってきた。


「絵は得意?」

「え? えって、絵?」

 下手なダジャレみたいな会話になった。


 へそから下がない体なのに、突然和まされた。

 なに、この仕打ち?


 だけど・・・。


 私は無言で、地面に絵を描いた。

 そばに落ちていた何か細い棒で。


「・・・ちゃぶ台?」

 名前を知らない子が首を傾げる。


「・・・豚」

 端的に答えて棒を投げ捨てた。


「ああ・・・」

 視線を泳がせている。


「ぷふっ!」

 すまし顔をしていたしらゆきまで噴き出している。

 白い手で口を押さえて。


 ぷくっ。

 ほほを膨らませてしまった。

 期待に沿えなかったのだろうが、書かせたのは彼女たちなのに。


「ふふっーー」

 思わず笑った。


 こんな姿になったのに。

『日常』が戻ってきた。

 何年かぶりに。


読了・評価。ありがとうございます。


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