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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第45話 学園祭を待ちわびる影 ~旧校舎の『ナニカ』、祭りを夢見る~中編

3話投稿します。1/3

 


 中は、まるで時間が止まったように、あの日のまま、机と椅子が並んでいた。


 でも、何かが違う。

 空気が、重い。

 まるで、誰かがまだそこに座っているような気配。


『ナニカ』は、静かに歩を進める。

 食室の床に、ぽつんと落ちていたのは――白いハンカチだった。


 端には、小さな刺繍で名前が縫い込まれている。

 けれど、その名前は、どこか読み取りづらく、まるで時間がその文字を少しずつ薄くしていったようだった。


 ハンカチは、何かを包むように、そっと結ばれていた。

『ナニカ』は、静かにその結び目をほどく。


 中から現れたのは、微妙な表情のフェルトのマスコット。

 目は左右で大きさが違い、口元は笑っているのか、泣いているのか、曖昧だった。


 不器用な縫い目。ほつれかけた耳。

 けれど、そこには確かに『手のぬくもり』が残っていた。


『ナニカ』は、そっとそれを拾い上げようとした。

 手を伸ばした瞬間、ふいに―― ツンと鼻を突く、消毒液の匂いが立ちのぼった。


『ナニカ』は、ぴたりと動きを止める。

 その匂いは、あまりにも鮮明で、まるで今しがた誰かが使ったかのよう。


 次の瞬間、足音が再び動き出した。

 今度は、急ぐように、足早に。


『ナニカ』は導かれるまま、後を追う。

 廊下を曲がり、階段を上がり、たどり着いたのは――保健室。


 扉は半開き。

 その隙間から、白いカーテンだった布が、風に揺れているのが見えた。

 まるで誰かが、そこに隠れているかのように。


『ナニカ』は、そっと中を覗き込む。


 ベッドが三つ。

 そのうちの一つ、中央のベッドのシーツに、深く刻まれた皺。

 そこには、誰かが泣いた記憶が染み込んでいる。


 声を上げることもできず、ただ枕を濡らし続けた涙。


 その涙は、時に血の味がした。

 噛みしめた唇の奥に、言葉にならなかった痛みがあった。


 白いシーツの奥で、今も微かに――その痛みが、うごめいている。


『ナニカ』は、そっと手を伸ばす。

 カーテンの向こうに、何がいるのかを確かめるために。


 ・・・その手が布に触れた瞬間、ベッドの下から、何かが――音もなく、這い出してきた。


『ナニカ』の指先に、ふわりと何かが触れた。

 それは――布。

 柔らかく、でも冷たい。


 見えなかった。

 けれど、確かにスカートの裾が、掌を掠めた。


 その瞬間、空気が震えた。

 足音が、再び響き出す。

 今度は、軽やかで、どこか楽しげなリズム。


 コツン、コツン――


『ソレ』は、もう保健室にはいなかった。

 足音は、廊下を抜け、階段へと向かっていく。


『ナニカ』は、わずかに息を呑んだ。

 その足音には、懐かしさと、恐ろしさが混じっていた。

 まるで、かつての誰かが、「また一緒に遊ぼう」と誘っているような――そんな音。


 階段の上から、風が吹き下ろしてくる。

 白いカーテンが、名残惜しそうに揺れた。


『ナニカ』は、ゆっくりと階段へ向かう。

 その先に待つのは、過去か、幻か、それとも――。


 階段を上る。

 一段ごとに、軋む音が違う。


 ギィ……ギシ……ギィ……


 その音は、まるで校舎が誰かの名前を呼んでいるようだった。

 懐かしい声。

 忘れたはずの呼びかけ。

 それが、木の階段の奥から響いてくる。


『ナニカ』は、静かに耳を澄ませながら、一歩ずつ、音の名前を踏みしめていく。


 二階の廊下に出ると、ふと立ち止まった。


 窓の下――そこに、誰かの影が残っていた。

 それは、もう存在しないはずの『誰か』の気配。


 窓辺に立ち、ずっと眼下の光景を見つめていた者。

 校庭の隅、鉄棒の錆、砂場の跡。

 けれど、その目は――見えない光景を見ていた。


 誰にも見えない、誰にも語れない、けれど確かにそこにあった『何か』を。


『ナニカ』は、そっと窓に近づく。

 影はもう消えていた。

 けれど、ガラスには、うっすらと手の跡が残っていた。


 冷たく、細く、震えるような跡。


 それは、ここにいた『誰か』が、最後に残した、願いのかたちだったのかもしれない。



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