第37話 カエル女の憂鬱◇仁科悠視点 ~後編~
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だから私は、数字に夢中になる。
効率を上げるたび、報酬が近づく。
それが、私の『生きている』証明だから。
思うところがあるとすれば、跳ねることも、笑うことも、もう命令だってこと。
でも——『命』を扱うことへの憂鬱だけは、まだ自分のものだった。
それは、かつて誰かを守りたかった『私』の、数えるほどに少なくなった灯り。
もうすぐ消えるかもしれない、小さな火種。
それでも、まだ、ここにある。
「あれ?」
ふと、違和感に気づいた。
寄生下にあるモノたちが、静かになっていた。
幼虫が巣立ったわけじゃない。
彼女たちはまだ、寄生された者の中で、静かに成長を続けているはずだった。
それなのに、動かない。
本来なら、痒みで身をよじるはずの反応が、まるで止まっている。
「どしたの?」
モンスターの再配置を終えたカルマが、私の肩越しにウィンドウをのぞき込んできた。
近い。
彼の体温で暖められた空気が、露出している肩を撫でていく。
その一瞬だけで、全身が震えそうになった。
でも、耐えた。
今、彼を邪魔するわけにはいかない。
私は画面を指差し、静かに言った。
「これ・・・おかしい。動きが、止まってる」
カルマは一瞬だけ眉をひそめ、そして言った。
「それは・・・おかしいな?」
でも、私はもう聞いていなかった。
首筋にかかった吐息が、温かい。
それだけで、心がざわつく。
あと、何ポイントだったっけ。
あと、何回、成果を出せば——
彼の手に、触れられる?
◇カルマ視点◇
どうしたんだろう?
疑問に思った瞬間、『システム』さんが素っ気なく答えを返してきた。
『魂を使い切ったのですよ』
それが、答えだった。
苦痛や精神的ショックによって魂を破断し、その欠片を『ソウルポイント』として回収する。 だが、あまりに繰り返せば、魂そのものが限界まで摩耗してしまう。
今まさに、その状態だという。
魂が『白化』したのだと。
感情も、感覚も、すべてを失い、漂白された魂。
もう、苦しむこともない。
ただ、そこに『ある』だけ。
『わかりやすく言うなら、転生時と同じです。死によって天へ還った魂が浄化され、まっさらになって再び地上に還る。その状態です』
『システム』は淡々と説明を続ける。
『ただ、普通はそれでも「人」として生きた経験があるため、高確率で「人」に転生します。救いがたい悪人の場合は粉々に砕かれ、破片一つ一つが動植物になったりもします。ですが、「白化」すると、確率はまるっきりゼロになる』
人間には、もうなれない。
動植物にすらなれない。
「じゃあ、どうなるんだ?」
『微生物からやり直しです』
おお、生物としての原初からリスタートか。
それもまた、ひとつの道か。
「次に生まれてくるときは、真人間になるんだよ」
無垢な心で、そう語りかけた。
いつになるかは知らないけど。
ふと、気になって尋ねる。
「この状態でも、生きられるの?」
『普通なら不可能ですね。ですが、この場に限定するなら問題ありません。ソウルポイントはもう取れませんが、マナポイントは取り続けることが可能です』
「なら、このままだな」
魔力供給の機能は残っている。
それなら、まだ役に立つ。
それにしても——
「詳しいんだね? 転生に」
「いいえ!」
なんだか、やけに強く否定された。
感情的になった?
珍しい。
「でも、詳しいよね?」
「お答えできません」
今度は取り澄ました声で、すっと流された。
追及はムダらしい。
今は、やめておこう。
ともかく、機能に支障はない。
『ソウルポイント』はもう得られないが、『マナポイント』は今後も回収できる。
機能を残しているものならば、活用する。
それが、ダンジョンの流儀だ。
――さて。
『転職』会場は、どんな様子かな?
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




