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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第36話 カエル女の憂鬱◇仁科悠視点 ~前編~

6/7

 


『ダンジョンマスター』——通称『ダンマス』。

 カルマが戦闘を指揮している。

 3Dウィンドウ越しに見るその姿は、まるでゲームでもしているようだった。


 その隣で、私もゲームをしている。

 都市開発ゲームだ。


 ウィンドウに広がるのは、ダンジョンの片隅に設置された『巣』の全景。

 六角形のユニットが整然と並び、稼働率、栄養循環、魔力生成量がリアルタイムで数値化されている。

 まるで、住宅地に公園を設置して住民満足度を上げるような感覚。

 でも、ここに住んでいるのは人間じゃない。

 ただの、資源だ。


 目的は明確。

 新世代の『虫』たちと『魔力』の生産。

 私はウィンドウ越しにモンスターたちを管理し、巣の維持を行っていた。

 それは、奇妙な充実感を伴う作業だった。


 巣は、機能性抜群のカプセルホテルのような構造をしている。

 六角形の壁面に沿って、無数の人間が収められている。

 裸の身体が寸分の隙もなく間仕切りに嵌め込まれ、粘着質の膜で固定されていた。


 拘束具は不要。

 巣の設計そのものが、行動の自由を吸収している。


 目を開けていても、何も見えない。

 音も、匂いも、感覚も、すべてが鈍く、遠い。

 ただ、口元に押し込まれる栄養と、体内を這う再生虫のぬめりだけが、『生』を知らせてくる。

 ――はずだ。


 巣に収める際、身体は慎重に『整形』される。

 不要な骨や肉は切除され、滑らかな断面に加工される。

 切り離された肉片は蜂型の作業虫によって丸められ、粘液で包まれた『肉団子』となる。

 それは、黒光りするシデムシによって口元に押し込まれ、反射的に飲み込まれていく。

 味覚も意思も、もう必要ない。


 排泄物は巣の底部から吸引され、下層の処理室へ。

 シデムシたちが選別し、栄養価の高い部分をペースト状に加工する。

 それは、孵化したばかりの幼虫たちに離乳食として与えられる。

 羞恥も嫌悪もない。

 ただ、効率と循環だけが支配している。


 巣の稼働効率を維持するため、定期的に『照射時間』が設けられる。

 人工的に調整された日光が、個体の皮膚に均等に届くように差し込まれる。

 温湿度は常に最適化され、皮膚表面の状態は監視虫によって記録される。

 骨密度の低下を防ぐため、筋肉には微弱な電気刺激が加えられ、反射的な収縮が起こる。

 すべては、パーツとしての人間を長期的に稼働させるための措置。

 壊れた部品を交換するより、手間がかからないというだけの話だ。


 ひとつのユニットが赤く点滅する。

 内部の個体が、稼働限界に達したようだ。


 私はウィンドウをタップし、再配置の指示を出す。

 数秒後、蜂型の作業虫が現れ、巣の構造を滑らかに変形させる。

 ユニットが開き、個体はゆっくりと引き出され、低負荷エリアへと運ばれていく。


 そこでは再生虫たちが待ち構えていた。

 彼らは個体の損傷箇所を確認し、必要な部位に群がって修復を始める。

 筋肉に刺激を与え、皮膚を再生し、魔力の通り道を整える。


 修復が完了すれば、個体は再び高効率ユニットへと戻される。

 使える限りは使う。

 それが、巣の方針だ。


 私はその一連の流れを見届けながら、胸の奥にじんわりとした熱を感じた。


「・・・これで、回収率が3%は上がる」

 そう呟いた声は、どこか嬉しそうだった。

 それが自分のことだと気づかないふりをして、私は次のユニットに視線を移した。


 最初は、ただの作業だった。

 目の前の数字を見て、最適化を繰り返す。

 どの個体が限界か、どの巣が非効率か、どの虫が過剰に資源を消費しているか。


 でも、気づけば私は、数字の変化に一喜一憂していた。

 魔力回収率が1%上がるたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 まるで、ゲームのスコアが更新されたときのような、あの感覚。


 その裏で、何人が『再配置』されたのか。

 どれだけの肉が削がれ、どれだけの排泄物が幼虫に与えられたのか。

 そんなことは、もう考えないようにしていた。

 だって、考えたら壊れてしまう。


 だから私は、目を逸らす。

 人間というラベルを剥がし、ただの『資源』として扱う。

 その方が、ずっと楽だ。


 そして、楽になった分だけ、作業は楽しくなっていった。

 数字が伸びる。

 グラフが跳ねる。

 効率が上がる。


 それだけが、今の私の『生』の実感だった。


 生産効率が上がり、グラフの数値が跳ねた。

 一定の数値を超えたのだ。

 その瞬間、ウィンドウの端に小さな通知が現れる。


 《魔力回収効率向上:報酬ポイント+1》


 それだけのことなのに、心が跳ねた。

 まるで、芸を成功させて頭を撫でられた犬みたいに。


 ご褒美は、たとえば甘い香りのする空気だったり、少しだけ自由に動かせる時間だったり。 ほんのわずかな快楽が、私の中の『人間』をなだめてくれる。


 十ポイント貯めると、カルマに手を握ってもらえる。

 私からおねだりした、ご褒美だ。


 五分間だけ。

 それだけでいいから、人のぬくもりに触れていたかった。



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