表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
駆馬からカルマへ――とある少年の変質――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/354

第七話 『通学路』

1/2

 


 駆馬の『明るさ』は、最初の曲がり角で地に堕ちた。


 母の視線が間違っても届かない。

 そう思った瞬間に、背筋を伸ばしていた気力が費えるのだ。


 丸くなる背中を、意識して立て直す。

 それでも、顔は上がらない。


 定められた通学路を、トボトボと歩く。

 視界の隅を、登校班の集合場所の目印が抜けていく。


 古ぼけていて、色褪せている。

 泥の付いた旗が、萎れた花のようにうなだれていた。


 登校班は一応ある。

 でも、誰も集合場所には来ない。

 時間が合わないからだ。


 それなのに、集合場所があるのは、『集団登校』が当たり前だった『昭和』の名残だ。

 近所の子供たちが、きちんと時間で集まる。

 高学年の子供が、低学年の子を母親や祖母から託され、守って歩く。


 半強制的なコミュニティの義務。

 子供同士ですら、地域の『仲間意識』で動く関係。

 そんなものがあった『痕跡』だ。


 昔は集団登校が当たり前だったということ。

 今は、来たい子だけが来る“自由参加”になっている。


 駆馬は一度も参加したことがない。

 誰かと歩く理由がなかった。


 駆馬も、いつものように一人で歩き出した。

 ともすれば、しゃがみ込みそうになる『重み』を背負って。

 ランドセルの影だけが、朝の道に伸びていく。


 あとから来た小学生たちが、黄色い声を上げながら追い越していく。

 自由登校とはいっても、『一人』は多くない。

 たいていは仲の良い友人と待ち合わせている。


「昨日のあれがさ―」

 テレビの話題を話す声が、駆馬の頭の上を超えていく。

 笑い声は近いのに、世界は遠かった。


 その番組を、駆馬は見ていない。

 見る余裕も、見る気力もなかった。


 テレビはあるが、そういえば電源が入るのかも知らない。

 番組を流していても、目に映らない、耳に入らない。

 だから、電源を入れる意味がない。


 それよりも、母の呼吸音の方が重要だった。

 息遣いで体調を。

 溜息で機嫌を。

 確認するために。


 角を曲がったところで、クラスメイトが母親に見送られていた。


「いってらっしゃい、気をつけてね」

「うん、行ってきまーす!」


 その声が、朝の空気に軽く跳ねた。


 駆馬は思わず視線を逸らした。

 胸の奥が、じわりと沈んでいく。


 当たり前の光景なのに、自分には一度もなかった光景だった。


 クラスメイトがこちらに気づき、

「おはよー!」と手を振ってくる。


 駆馬も笑顔を作って返した。

 母の前で作る笑顔と、同じ形の笑顔だった。


 その横で、母親が駆馬にも声をかけようとした。

「あら、駆馬くん、おはよう」


 駆馬は軽く会釈して通り過ぎた。

 立ち止まれば、何かが崩れそうな気がした。


 笑い声は近いのに、世界は遠かった。


 母親の視線が、駆馬の靴のかかとで止まった。

 ほんの一瞬だけ、眉がわずかに動いた。


 駆馬は気づかないふりをして歩いた。

 声をかけてきた母親が、息を吐くかすかな音がやけに大きく聞こえた。

 立ち止まりもせず去る駆馬の背中を『見ていない』ことはわかっていた。


 大人の常識として声はかける。

 だけど、『関わりたい』わけではない。


 通りかかった家の犬が、駆馬にだけ吠えた。

 他の子どもには尻尾を振っていたのに。


 誰もいない集合場所で、旗だけが風に揺れていた。

 まるで、忘れられた約束事のように。


 大通りに出た。

 もう、曲がり角も路地もない。

 まっすぐの道、その先に学校が見えていた。


 気づけば歩幅が小さくなっている。

 学校が近づくほど、胸の奥が冷えていく。


 子供たちが、駆馬を置き去りにして先に行く。

 見送る大人たちの視線が、駆馬の影に落ちていく。


 まともには見ない。

 そこにいることを無視はしていない。

 ただ、確かに『壁』を感じさせる視線だった。


『町の異物感』を、通学路のあちこちに落として駆馬は登校する。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ