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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第111話 幕間 ~あるかもしれない『二部』へ向けて~ 後編

3/3

「これが標準制服。濃紺のセーラーに、えんじの無地袴。装飾は一切なし。まるで『個性』を封じるための衣装だよね」

 七影のひとりが、宙に浮かぶ七着目の制服を見つめながら呟いた。


「いや、制服って元来そういうものだから」

「個性をなくすことで差別もなくすってやつ」

「最近の風潮からは逆行するけどね」

「そりゃそうだ。大正ロマンだし」

 時代を四つも遡っている、と指摘が飛ぶ。


「・・・・・・」

 七着目が、宙に浮いて袖を揺らしている。


 

「で、当然ながら男子制服も用意した」

 カルマが続ける。


「これになるね・・・まぁ。女子と比べると『地味』だけど」

 彼が指し示したのは、黒一色の詰襟学生服。


 金ボタンが五つ、襟には小さく校章の刺繍。

 ズボンはストレートのスラックスで、裾はやや短め。

 足首がちらりと見える程度。

 白の立ち襟シャツに、黒の革靴。

 靴下も黒で統一されている。

 厚手の綿とウール混の生地は、動きやすさよりも耐久性を重視したものだった。


 その姿は、まさに『旧制中学』の名残を感じさせる、無骨で実用的な制服。

 規律と秩序を象徴するような、無言の圧力をまとっていた。


「・・・でも、着こなし次第で、案外いけるんだよな」

 ひろがぽつりと呟くと、誰かが「たこ焼き屋の店主、いい味を出してたよね」と笑う。


【たこ焼き屋の店主】は、学ランの上に割烹着を羽織り、ねじり鉢巻きを締めていた。

 制服の名残を残しながらも、今の自分をしっかりと重ねていた。


 そして——


 カルマと駆馬。

 ふたりは、標準の学ランをきっちりと着こなしていた。

 だが、よく見ると、胸元のボタンのひとつだけが違う色をしている。


 それは、かつて駆馬が着ていた『旧制服』のボタンだった。

 新しい制服に、ひとつだけ残された過去の欠片。

 それは、彼の中に確かに残る『人間らしさ』の証のようでもあった。



「色や柄、小物は自由でいい。学校風であって、学校じゃない。だからこそ、好きに着こなせばいい・・・オレ自身、ようやく『制服』を着る意味がわかった気がするよ」」

 仮縫い段階の制服を着こなす仲間たちをゆっくりと見まわして、カルマが言う。


 妖怪たちは頷いた。

 その表情は、年相応の少女のようで、探索者だった頃にはなかった柔らかさがあった。


 妖怪になって初めて、彼女たちは『人間の少女』として笑い合うことができていた。

 それは、命を超えた者たちだけが手にできる、ささやかな祝福だった。


 そして、祭りの準備は静かに、華やかに始まっていく。

 その内容はまだ誰にも明かされていない。

 けれど、彼女たちの笑顔が、それが『祝祭』であることを物語っていた。




 ―――――と、そのとき。


「ねぇねぇ、似合う? 似合う〜?」

 くるくると回りながら、駆馬ママが教室の中央に舞い降りた。

 淡い桜色のセーラー襟ブラウスは、白いレースがふんわりと揺れ、袖口のリボンが蝶のように跳ねる。

 濃い紫の袴は裾に黒い羽根模様が広がり、回るたびにまるで『闇』が舞っているようだった。


「・・・似合ってる、とは思う」

 しらゆきがぽつりと呟いたが、誰もそれ以上の言葉を続けなかった。


 帯は黒とピンクの市松模様。甘さと毒気が混ざったような配色に、視線が自然と逸れる。

 ゆるく巻いたロングヘアには、左右に大きなリボン。

 その中心には、目玉のような飾りがじっとこちらを見ていた。

 胸元には「駆馬命♡」と刺繍されたハート型のブローチが輝いている。


「歩くたびに『コツ、コツ』って音がするの、聞こえる? これ、厚底なの〜♪」

 白いレースソックスに黒のローファー。

 その足音は、可憐さよりも不気味さを際立たせていた。


「・・・あの、駆馬ママさん」

 みどりが勇気を振り絞って声をかける。


「その制服、どこで・・・?」

「えへへ〜、カルマくんが『標準制服を自由に着こなしていい』って言ってたから、ちょっとアレンジしてみたの♡」

 満面の笑み。

 暗い翼を背負いながら、まるで春の風のように軽やかだった。


「・・・自由って、そういう意味だったかしら」

 えいりが肩をすくめると、サラが小さく「火をつけたら燃えるかも」とぼそり。


「でも、似合ってるよね? ねぇねぇ、似合うよね〜?」

 再びくるくると回る駆馬ママ。

 その笑顔は、確かに可憐だった。

 けれど、誰もが一歩だけ距離を取っていた。


 それは、制服のせいではない。

 彼女の『愛』が、あまりにも濃すぎるからだった。



『祭り』の始まるときが、近づいていた。



 廊下の向こうから、太鼓の音がかすかに響いてくる。

 どこからか漂う甘い綿菓子の匂いに、誰かが小さくくしゃみをした。


読了・評価。ありがとうございます。


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