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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第108話  観客のいない観客席 ~堕落した裏方たち~

2/2

 


 ◇即興劇を台本に起こす者◇


 その教師は、迷宮の隅に座り、タブレットを操作している。

 指は震えていない。

 目は冷静だが、どこか虚ろ。

 彼は、教師としての責任を果たすために記録している――そう信じている。


「記録しておけば、責任は果たしたことになる・・・はずだ」


 でも、その言葉には自分への言い訳が混じっている。

『生徒』の、『妖怪たち』の、問いに答えることが怖い。

 答えれば、自分の『加担』が明るみに出る。

 だから、記録に逃げる。


 その教師は、かつて『問いを持つことの大切さ』を教えていた。

 作文指導、発表会、討論――—生徒に「言葉の力」を教えていた。

 でも、カルマの事件のとき、彼は黙っていた。

 それが、今も彼の胸を締めつけている。


「問いを持つことは、自分にも相手にも責任を持つことだ。・・・だから、俺は問いを持てない、答えられれない」


 彼は、自分が『語る資格を失った』と判断している。

 でも、記録することで、語る者の背中を支えようとしている。


「俺は問わない、答えない、ただ・・・証明する。ここに、『誰か』いた、と」


 彼は、最後まで『記録』し続けた。

 いつ『終わった』のか。

 知る者は少ない。


 ただ、カルマの呟きが残るのみだ。


「台本の但し書きは消さない。上書きするだけだ」


 筋書だけで舞台はできない。

 動きの記録だけでは演じられない。

 演出があって、舞台になる。


 最後の一文は、途中で途切れていた。

『ここに、いたのは——』。



『記録』は、誰かの『演出』を待っている。



 ◇元照明さん◇


 彼女は、教室の隅に膝をつき、手を合わせている。

 目は閉じられ、声はかすれている。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」

 その言葉は、誰にも届かない。

 誰に向けたものかも、彼女自身わかっていない。


 彼女は、かつて『心のケア』を担当していた教師だった。

 生徒の悩みに耳を傾け、言葉を選び、寄り添っていた。

 でも、カルマの事件のとき、彼女は沈黙した。


「何も言えなかった。何もできなかった」

 その後悔が、彼女を“語れない者”に変えた。


「謝ることで、何かが戻るなら・・・」


「誰に、何を、謝っているの?」

 問いは、迷宮の壁に消えた。

 彼女が答えを持っていないことは明らかだった。


 漠然と何かに謝罪している『ような行動』をとっているだけだった。

 もう、カルマのことも頭にはない。

 ただ、『祈る』ことで無心になれる。

 そんな自分の心の迷路、その奥に引きこもっているだけだ。


『鬼』が背中から抱きしめた。

 彼女は小さく息を吐いて、横になった。



 暗転。

 彼女の祈りは、舞台の奥へと沈んでいった。



『鬼』は目をつぶっていた。

 だけど、その腕の感触を『鬼』は決して忘れないだろう。


 かつては、生徒たちに出口は無理でも、歩き方は伝えられていたはずだった。

 だけど、今の彼女の手に、足元を照らす明りはない。

 迷路から解放された彼女の魂がどこへ行くか、それは迷宮だけが知っている。


 ◇パントマイム◇


 彼は、教室の中央に立っている・・・つもりになっている。

 存在しない黒板に向かって、ペンを持ち、何かを書こうとしている。

 でも、手は止まる。


「次のテストでは・・・いや、テストはしない、何を試せばいいかわからない・・・」

 その言葉は、語りのようで語りではない。

 彼は、かつての『教師』という役割を演じ続けているだけ。


 彼は、かつて『厳格な指導』を信条としていた。

 ルール、評価、指導――それが教育だと信じていた。

 でも、カルマの事件で、その『教育の形』が崩れた。

 彼はそれを認められず、崩れた記憶の中で演技を続けている。


「教師であることが、俺のすべてだった。・・・それ以外、何もない」


 彼の目には映っていた。

 妖怪たちが同僚に歩み寄る姿が。

 なのに、何も見てはいなかった。

 彼の目には、『一生懸命に勉学に励む愛すべき生徒たち』しか映らない。


 幕は降りない。

 彼だけが、舞台に残された。



 のちに、木造校舎で授業を続ける教師のうわさが広がる。

 ただ、その『名前』は誰も知らない。



 ◇大道具◇


 彼は、迷宮の片隅に座っている。

 目を閉じ、呼吸は浅く、動きはない。


 妖怪たちは彼に問いを投げない。

 カルマも、彼に目を向けない。


 それは、語りの場が彼を『語る対象』として認識していないことの証。

 迷宮は、語りの場。

 語られなかった者は、迷宮の記憶に溶け込む。


 でも、沈黙を選んだ者は、記憶としても残らない。

 ただ、空間の一部として、静かに溶けていく。


 彼は消える。

 彼が置いた道具は残された。



「・・・」

 木造校舎のダンジョン。

 その一角に、巨石が鎮座する部屋がある。

 他にこれといった特徴のない部屋だ。

 ただ、時折、『この岩が話し始めるときがある』そんな話を聞くことがある・・・らしい。



「観客(生徒)のいない役者(教師)か、みじめなものだな」

 カルマが、総評を口にした。


「誰も見ていないのに、演じ続ける。・・・それが、彼らの最後の『役』だったんだね」

  悠の声は、誰にも届かない舞台に落ちていった。



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