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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第107話 舞台袖の観客たち ~静かなる退場~

1/2

 


「彼女たちは『人間』だったね」


 再び歩き始めた『探索者』たちに視線を向けたまま、カルマが呟いた。

 妖怪たちの背筋が伸びる。


 『人間』だった時、『人間性』を失っていたことに気が付き、苦しんだ者たちだ。

 身につまされすぎている実感だったからだ。


 人の痛みを『娯楽』に、笑いに変えた。

 人の心に『価値』を与えなかった。

 人の命を『結果』でしか見なかった。


『人間性』を捨て、なにか別のものに憑りつかれていたのだ。

 そのことに、『人間』として死んでから気が付いた。


『妖怪』として『再誕』して、初めて気が付いた。

 それなのに、ウィンドゥの向こうにいる彼女たちは『人間』でいる間に気が付いている。

 それは、尊敬に値した。

 自分たちにはできていなかったことだから。


 転んで傷ついていた仲間の腕、血の滲んだ包帯を巻きなおしてあげている姿。

 声を掛け合う様子が、ひどく眩しい。

 傘の影に顔を隠す者、自分の冷たい指先を気にする振りをする者。

 正視できずにいる者が多かった。


「それに比べて・・・」


 カルマの瞳が冷たく光る。


 25階層。

 現在『ダンジョン』内にいる『お客様』の集団を見据えていた。


 ある者は酒に逃げて酔っ払い。

 ある者は『生徒』を殺そうと殺意を研ぎ澄ましている。


『教師』も『人間』も見当たらない。


 妖怪たちは息を吐いた。

 カルマは明言しなかったし、自覚があったのかも疑わしい。

 だけど、『教師』たちにはチャンスを与えていた。


 生徒の多くには63階層での一掃のみ。

 一切のチャンスを与えず、慈悲も見せなかったのに、だ。


『真梨華』を使っての通告がそれだった。

 地上に出て訴える。

 責任を追及する。

 これをどう受け止めるのか?


 教師たちの『総意』は、『生徒の殲滅』だった。


 説得ではない。

 自己弁護でもない。

 いきなりの『殺戮』。


『教師』として、『人間』として、『大人』として。

 それは『正しい』か?

『納得』は可能か?


 ムリだろう。


 そして、それは50階層の者たちだけでなく25階層の者でも同じらしい。

 いっそ潔いと言いたくなるほど、自分たち大事であるようだ。


「・・・それでも、あの人たちは教師だったんだよね」

「だった、だね。今はただの『役職の残骸』だよ」

 その役職自体、今では詐称ではなかったか疑いを持つ。

 そのくらい、カルマの中で、彼らの存在は『空っぽ』だった。


『教師』という『仮面』があってようやく存在していた人たち。

 その仮面もなくなった今、カルマに彼らの『顔』は見えていなかった。


 目も鼻も口もない。

 平らな、『空白』だ。


「困ったね」


 まったく困っていない顔で、カルマが呟いた。

 それは、真梨華を差し向けた時と全く同じ顔と言葉だった。


 悠はそっと目を閉じた。

 妖怪の仲間が何人か、ここにいない理由を嚙み締める。

 63階層の惨状が瞼に浮かんでいた。


『生存者』として真梨華と、他の、本物の、『生存者』と合流していた妖怪たち。

 彼女たちは今、25階層に向っている。

『妖怪』の中でも、特に容赦のない者たちが。


 ◇『顔』のない襲撃者◇


 25階層まであと少し。

 そんな通路で・・・。


「来たぞ!」

 声が上がった。


 杖を持った教師が、詠唱を始める。

 剣を持った教師が魔法に合わせて飛び出すべく力をためる。


『生徒たち』を待伏せしようという『教師』の一団だった。


「・・・ばか、な・・・」

 最後の一人が崩れ落ちた。


 照明が落ちるように、教師だった者たちの姿が消えた。


 彼らは知らなかった。

 目の前にいるのが、『人間』ではないことを。


「脆いな」

 教師を壁のシミに変えた『鬼』が、首を振る。


「信念がないからさ」

 風と雷を操る『天狗』は素っ気ない。


「群れてはみても、『個』では・・・」

 戦いにならない、と首を振る『鶴女房』。

 背後の亡霊が、かつての自分を重ねている。


「下しか見てこなかった者は、視野が狭い」

『生徒』を支配下に置いていると思い込んでいたのでは『対等』にはなれないのだと『達磨』が静かに言葉を浮かべた。


 25階層に留まる『教師』の半数が、ここに散った。




「『顔』がない割に、一度で終わったね」

 終わりを見届けて、カルマが肩をすくめた。


「ん? 一度で終わらないの? 顔がないと?」

 不思議そうに悠が首を傾げた。


「顔がないって、あれでしょ? 終わったと思ったところでもう一度来る。『再度の怪』。つまりは『のっぺらぼう』のことよ」

 テケテケの園山裕子が、少し呆れた風に口を挟んだ。


 椅子に座り、静かに「足」をさすっていたのだ。

 スカートを穿いていることも、そこから足が出ていることも、いとおしいらしい。


「ああ! 『そいつは、こんな顔でしたかい?』ってやつ!」

 知ってる!

 悠が手を叩いた。


「そっかー。最後まで『役』になり切れなかったんだね」

 首をフルフルと振っている。

 残念そうだ。



 顔がない者は、誰かの記憶にも残らず闇に溶けていく。



 ◇管を巻く者に絡む糸◇


「ちっ、もう、どうでもいい、もう、おわりだ」

 酒瓶を抱え、酒の匂いを纏わせながら、男は『酔えない』体を横たえていた。


 酒は飽きるほど飲んだ。

 だが頭が冴えて酔えない。

 眠れない。


 『生徒』の命を奪う決断は重かった。

 『責任』と立ち向かうのは強かった。

 教師という立場に戻る『理由』も『資格』も、もうなかった。


 その首に、やさしく糸が絡まった。


「おやすみなさい」

 沈黙が訪れる。



 舞台袖から、誰かが静かに拍手した

 夜に抱かれていくような終わり方。

 迷宮のどこかで、誰かがそっと息を吐いた。

 それは、ささやかな安堵だった。


「静かだったね。とても『蜘蛛』らしい『終わらせ方』だ」

 カルマの呟きが落ちる。


「ゆっくり眠れそうかな?」

「さあ、どうだろうね」


 幕が揺れる。

 次の場面が始まる



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