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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第105話 残された探索者たち② ~沈黙する冷静さ~

1/2

 


『システムチャット:更新』


「え? 『システムチャット』機能してたの?!」

 脳内に出たチャット画面に驚いて誰かが声を上げた。

 一斉にスマホを覗き込む。

 脳内チャットでも内容は読めるが、スマホのほうがより詳細な情報が見れる。


「私のにも、きてる」

「私も」

「同じく」

「行動を共にしていたから、パーティ認定されていたんだな」

 全員に同じメッセージが来ていることを確認した。


『指名クエストの発生』

「しかも、クエストときたか」

 この状況下で!


『パーティ全員の「口にできない思い」を披露せよ』

『報酬:「運命の選択権」』

『期間:「命のある限り有効」』

『※一定期間を経過すると、自動的に選択が行われる可能性あり』


 その文字を見て、誰かが呟く。


「・・・これって、語らなきゃ『選ばれる』ってこと?」

 何を選ばれるのか。

 わからない怖さに身が震えた。


「ぁ・・・」


 声を上げたのは『逆さ言葉』の彼女だ。

 口を開こうとして、一瞬沈黙、自分のスマホを隣に見せた。


「え? ・・・あー、逆さ・・・・えと・・・」

 隣の子は、自分で話すとどう表現するかわからないから任された、と気づいて頷いた。


「『語り終了得点: :1/5』」」


 その数字が、彼女のスマホ画面に表示されていた。

 他の子たちも、自分の画面を確認する。

 そこには、同じ「1/5」の表示。


「・・・もう、語ったことになってるんだ」


 誰かが呟く。

 彼女は、静かに頷いた。

 あの“逆さまの言葉”が、すでに語りとして記録されていたのだ。


「じゃあ・・・あと4人」


「語らなきゃ、何かを『選ばれる』ってことか」


 再びその言葉が、空気を震わせる。

 誰もが、スマホを見つめながら、沈黙する。


 その沈黙は、重く、深く、まるで迷宮の壁が、彼らの心を覗いているかのようだった。

 何を『語れ』と言われているかは何となく理解していた。


 自分の中にあって、存在感が重い。

 外には出せないモノ。

 それを出せと言われているのだと。


 そして——誰かが、そっと息を吸った。

 語りの灯が、次にともる気配がした。


 ◇糸部屋組の生き残り(沈黙の灯)◇


 彼女は、スマホを見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「・・・あの、『呪いの主』。私は見てたんだよ」


 誰かが息を呑む。

 空気が、少しだけ重くなる。

 知っていた子がそっと視線を外した。


「動けなかった。みんな、糸に捕まってて・・・声も出せなくて」


 彼女の声は、震えていた。


「リーダーが、『沈黙』を命じたの。音を立てたら、次は誰がやられるかわからないって。だから、私たち・・・ただ、黙ってた」


 迷宮の空気が、ひんやりと冷える。

 誰かが、靴紐を弄りながら、何も見ていない目を足元に落としていた。


「でも・・・聞こえてたんだ。泣いてる声。私の名前を呼ぶ声」


 彼女は、膝の上で拳を握りしめた。


「怖かった。動けなかった。声も出せなかった。・・・怖くて、怖くて」


 沈黙が落ちる。

 誰かが、そっと自分の耳を抑えた。


「・・・私、『軽業師』って称号、持ってたんだよ。縄抜けのスキルがあって・・・」


 一瞬、誰かが彼女を見る。


「でも、使わなかった。使えなかった。・・・いや、使わなかったんだと思う」


 動いたら、誰かが見つかる。

 誰かが、次にやられる。


「そう思ったから・・・」


 彼女は、顔を伏せる。


「でも、あの子は、最後まで呼んでた。私の名前を。助けて、って」


 声が、少しだけ震えた。


「『沈黙』は、正しかったのかもしれない。誰かが動いてたら、全滅してたかもしれない。でも・・・」


「でも、私は、あの子を見捨てたんだよ」


 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。


『語り終了得点:2/5』


 彼女は、顔を上げなかった。

 でも、その背中は、少しだけ震えていた。


 ◇冷静な分析タイプ(理性の灯)◇


「・・・ウソはいけないわね」


 沈黙の中で、眼鏡の奥の瞳が静かに光る。

 彼女は、眼鏡を持ち上げながら、うつむく少女を見つめた。


「え・・・?」


「『あの子』は、もう虫の息だった。足を動かすのがやっとで、声なんて出せなかった。『助けて』なんて言ってない。名前も呼んでない」


 言葉は冷たく、正確だった。

 まるで、記録を読み上げるように。


「・・・私は、見えてたの。あの子の状態。だから、助けない方が効率的だと判断した」


 沈黙の少女が、数度唇を嚙んだ。

 それはまるで、自分の唇に罰を与えるようだった。


「動けば、他の子が巻き込まれる。リスクが高すぎる。だから、私は動かなかった。・・・それが、最善だった」


 彼女の声は、揺れなかった。

 でも、その手は、わずかに震えていた。


「優しさって、何かしら。助けること? それとも、守ること? ・・・」

 少し考えてみせる。


「私は、守った。・・・少なくとも、そう思いたい」

 そして、断じた。


 彼女の言葉が迷宮に溶けていく。

 誰も、すぐには口を開けなかった。


 冷静なはずの語りが、なぜか空気をざらつかせる。

 その『正しさ』が、誰かの胸を締めつけていた。


「・・・それでも、助けたかったって思ったこと、ないの?」


 ぽつりと、誰かが呟いた

 問いではなく、ただの感情の漏れだった。


 彼女は答えなかった。

 ただ、眼鏡を直した。

 その動きは、いつも通り冷静だった。


 でも、誰もが気づいていた。

 その瞳の奥に、揺れがあったことを。

 その揺れを見て、誰かがスマホ見た。

 握りしめたまま、画面は見ていない。



『語り終了得点:3/5』



 数字は進んでいる。

 でも、心は、まだその場に留まっていた。


 迷宮の空気が、静かに震える。

 次の語り手の灯が、ゆっくりと灯り始める。

 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。


  ◇語り終えた者の変化◇


「助けて、言ってた、名前、呼ばれた」

 沈黙の少女が訴えた。


「・・・・・・」

 本人は真顔のまま、座っている。


「え? わたし、なにも・・・」

 言っていない、そう言おうとした彼女の後ろ頭から何かの影が浮き上がった。

 黒い影なのに、口元だけが妙に印象に残った。

 黒一色なのに、唇だけ赤い印象を受ける。

 そして――


「わた・・・し、よばれた。たすけて・・・いってた」


 舌っ足らずな主張が繰り返される。

 全員が、小さく頷いて、丁重に無視された。


 それが、この場の『決まり』だ、と。



「これ・・・は・・・」

 冷静な少女が、茫然と掌に視線を落とした。


 彼女の座る床に、妙にねばつく液体――『油』が染みてきていた。

 どこからともなく『油』を集めているように見える。

 色合いや匂いが、微妙に違う。

 それぞれが、『誰か』からしみだしているような気がした。


 これも、丁重に無視された。

 誰かが一瞬だけその染みを見た。

 けれど、何も言わず、靴紐を結び直すふりをした。


 何かしら、不思議なことが起きる。

 この場はそういう場なのだ。


 ◇


 油の染みを見つめながら、年少の子がぽつりと呟く。


「・・・ボクも、呼ばれたことがある。手を引いてくれた人がいた。・・・でも、今は、もういない」



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