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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第104話  残された探索者たち① ~連鎖する言葉~

2/2

 


「ねぇ・・・」


 双子を見送った生徒たち。

 互いの顔に『不安』を感じて立ちすくんでいた。


 地上を目指した時、20人ほどいたはずだった。

 それが今、5人しかいない。


「真梨華、どこ行ったのよ・・・」

「他の子たちもよ。真梨華と一緒に来てた子、全員いないじゃない」

 残っているのは旧先駆けB班と、後詰の『糸部屋組』の生き残りだけだった。


「私たち、何も考えないで走ってきたよね」

「一度、立ち止まって考えよう。疲れもあるし」


 5人は、迷宮の静けさの中で腰を下ろす。

 誰かが水筒を差し出し、誰かが靴紐を結び直す。


 5人は、迷宮の静けさの中で腰を下ろした。 誰かが水筒を回し、誰かが靴紐を結び直す。 誰かが「この後どうする?」と、少しだけ軽い声を出した。


「双子、ちょっと怖かったけど・・・優しかったよね」

「うん。あの『がんばってね』って、なんか・・・じんわり沁みた」


 笑い声が、ほんの少しだけ戻ってくる。

 それは、迷宮の中で見つけた『人間らしさ』の残り香だった。


 彼女は、黙っていた。

 笑い声の輪の外で、じっと靴の先を見つめていた。


 ——「がんばれよ!」

 あの時、自分が言った言葉。

 泣いていた子は笑って「うん」と言った。

 でも、次の日にはいなくなっていた。


(あの笑顔、双子と同じだった・・・)


 心が揺れる。

 胡麻化すように動いた視線が仲間の靴を捉えた。


 探索者たちが休憩している中、彼女は誰かの足元を見て声を上げた。


「うわっ、その靴、ピッカピカじゃん! 新品かよ〜!」


 言われた子が思わず足元を見下ろす。

 つま先は擦り切れ、紐も片方ちぎれていた。


「・・・え? これ、ボロボロだよ?」

「え〜? なに言ってんの、めっちゃ綺麗じゃん! 最高!」


「それって褒めてるの? けなしてるの?」

 彼女は笑っていた。

 でも、その笑顔は、どこか引きつっていた。


 周囲は少しずつ違和感を覚え始める。

 誰かが水を飲み、誰かが武器の手入れを始める中、彼女も腰の短剣を取り出した。

 布で丁寧に拭きながら、刃先を覗き込む。


「うわ〜、この刃、歪みすぎててヤバい! 錆もひどっ!」


 隣の子が覗き込む。


「・・・え? めっちゃ綺麗だけど?」


 刃はまっすぐで、光を反射していた。

 錆なんて、どこにもなかった。


「いやいや、見てよこれ! ぐにゃって曲がってるし、錆びてるし〜!」


 彼女は笑いながら刃先を指差す。

 でも、その指は、空を指していた。


 周囲の空気が張り詰めていく。

 誰もが、彼女の言葉に違和感を覚えていた。

 でも、それが何なのか、はっきりとは掴めなかった。


 彼女は、笑っていた。

 でも、その笑顔は、誰にも届いていなかった。


(・・・なんでそんなこと言ったの?)


 彼女自身も混乱していた。

 喉の奥が熱くて、言葉が泡になって弾けた。


 口が勝手に動き、言葉が逆さまになっている。

 刃に映る自分の顔は笑っていた。

 笑っているのに、空気が冷えていく。


(やめて。もう喋りたくない。何も言いたくない)


「・・・もしかして『逆に』なってる?」

 元先駆けB班のリーダーが言葉を落とした。


「あっ」

「逆さ言葉か! 言葉の意味が反転するってやつだ! 『余裕』が『ムリ』になるみたいに?」

『言葉』と『思い』が逆転するということだ。

 他の者たちも気づく。


 そうだ。

 逆さ言葉なのだ、と。


 でも、なんで?

 疑問は浮かぶ。

 そんな視線が向けられている。


 口元に手を当てる。

 言葉を止めようとしている仕草だと誰もがわかったはずだ。

 でも、喉の奥が熱くなって、言葉がこぼれた。


「・・・あの子、さぼってたからさ。わたし、言っちゃったんだよ。『だらけてろ』って」

 言葉がおかしい、でも『逆になっている』と気がついて聞く者には痛すぎた。


(やめて。話したくなんてないのに! あ、あれ? ・・・)

(『頑張れ』って言ったつもりが、『だらけてろ』になってた・・・?)


「そしたら、次の日、当たり前の顔で普通にいたんだ。もっと『頑張れよ』って、言えばよかったよな」


 普通にいた。

 逆さ言葉で訳せば・・・。

 ありえない形で『いなくなった』、だ。


 いつもそばにいた『誰か』。

 きっと、仲がよかっただろう『誰か』が。


 彼女は語り続ける。

 涙を流しながら、笑っていた。


「始まりの日、あの子、『泣いてた』。『さよなら』って言わなかった。あれは『希望』だったんだって今でも理解できない」

『笑ってた』、『ありがとう』、『絶望』。

 それが、今なら『理解』できる。


「・・・わたし、試したかっただけなのに。なのに、言葉で人を守った。だから、私は正しいことを言うんだ。わたしの言葉は、もう絶対に正しいんだから」


 確信めいた言葉。

 なのに、口調はかすれて震えている。

 迷宮の壁が軋む。


 沈黙が落ちた。

 誰も、何も言わなかった。


 その中で、元先駆けB班のリーダーが静かに言葉を落とす。


「それだけ? 終わりなの?」


 彼女は目を見開いた。

 その言葉は、優しくて、鋭かった。

 何かを確認する目だった。


(・・・まだ、話さなきゃいけないの?)


 肩が落ちる。

 何か言おうとして——

 でも、その瞬間——口が、閉じた。


 行動も逆だった。

 黙ろうとすれば話し続け、話そうとすれば止まる。


 喉の奥が静かになり、言葉が止まった。

 涙も止まり、笑顔も消えた。

 ただ、静かだった。


 誰も、何も言わなかった。

 でも、誰もがわかっていた。

 語りつくせぬ思いこそが、沈黙になると。


 その沈黙は、雄弁だった。

 言葉よりも深く、空気を揺らした。


 迷宮の壁が、わずかに震えた。

 誰かの影が、彼女の背後で揺れた。

 でも、彼女は振り返らなかった。


「・・・これ、『確実』に何か始まってるよね?」

 元先駆けB班のリーダーが頭を抱えて、その言葉を、一言一言確認しながら口にした。


 双子から、『何か』の流れが始まっている。

 そんな気配が周囲を取り巻いていた。



 その時——、一人の視線が、彼女に向けられた。

 次に語るべき者の目だった。


 その目は、まだ迷っていた。

 でも、問いはすでに始まっていた。


 ◇観察者~カルマ視点~◇


「・・・何か、始まったな」

「妖怪化?」

 カルマの呟きに呼応して、悠がウィンドゥを覗き込んだ。

 新しい『仲間』が増えるのかと期待顔だ。


「そうかもね」

 カルマが頷く。


「どんな子かなぁ」

 楽しみ!

 ちょっと言葉を弾ませる悠。


 カルマの頬が少し緩んだ。

 本人に自覚はなかったが。


「ここまでの逃避行で、積みあがったストレスが一定段階を超えた・・・そんなとこかな? どう? 合ってるか?」

 問いは『システム』に向けてのものだ。


『その通りです。ダンジョン内での『妖怪化』のプロセスが形式化しつつあります。今後、ある程度の条件が整えば、『妖怪化』は一般化する可能性があります』


『ダンジョンマスター』や『システム』の介在なしで『妖怪化』するモノが出たことから、予想はできたことだった。

 迷宮内での『現象』となりつつある。


「今から始まるのはさしずめ、『百物語』かな?」


 百の語りが終わると、何かが現れる。

 そんな伝承がある。


 夏の怪談話における『定番』だ。

 ここで『百』も語りが行われるとは思わないが、『形』は似たものになる。


『妖怪化』が起きる『迷宮』でそれが行われる。

 何が起きるのか・・・。

『何か』が起きそうな予感が止まらない。


「まず見ていようか。ただし、道筋は提示しておこう」


 物語は、静かに次の章へと進んでいく。



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