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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第102話 『ダンジョン設計』 ~学園祭の舞台づくり~

2/2

 


 迷宮は、ただの殺戮装置ではない。

 それは『記憶』をなぞる舞台であり、『感情』を吸い上げる装置。

 カルマはそう考えた。


 だからこそ、彼が設計したのは、木造校舎を模したダンジョンだった。

 ギシギシと鳴る床板、煤けた黒板、誰もいない教室。

 そこに詰まっているのは、かつて誰にも見られなかった『日常』の残響。


 構造:三年制・九階層+イベント階層

 迷宮は1年につき3階層、計9階層で3年間の学校生活をなぞる構成。

 さらに、10階層目には『イベントフロア』を設け、入学式や卒業式、文化祭などの『行事』を演出する。


 この構造は段階的に繰り返される。


 入学式から始まって、卒業式まで。

 学校行事をなぞっていく。


「入学式では『生徒手帳』の配布と『校歌斉唱』でもさせようかな」

「生徒手帳?」

 悠が首を傾げる。


「中身はスタンプラリー帳。各階層にあるイベントをクリアしていく感じにしようと思ってる」

「・・・ずいぶん、楽しそうなダンジョンね?」

 確かめるように友梨が問いかけた。


「オレも別に『探索者』すべて・・・まして『人間』すべてを憎んでいるわけじゃないからな。死者の出ないダンジョンでもいいと思っているよ」

 ・・・死者が出ないとは言わないけどね。


「入学式は、歓迎の儀式だ。 生徒手帳を渡し、校歌を歌ってもらう。 それだけでいい。 彼らが『生徒』になるには、それで十分だろ」

 うんうんと楽しそうに頷いて、カルマが手にしたノートに何かを書き付けていく。


「次は定番の身体測定だ。スタンプラリー帳の1ページ目、身長、体重、視力、握力、心拍数を図っていく。ただし、どれも魔力吸収機能付きにしよう」

 攻撃性を感じるようなものではなく、ごく微量でいい。

『マナポイント』を稼がせてもらう。


【身長:棺桶型測定器。夢の高さに届かない。

 体重:心の重さ。言葉の沈殿。

 視力:見たくなかったものが見える。

 握力:掴めなかった手。

 心拍数:名前を呼ばれた瞬間の鼓動。


 ※全項目、魔力吸収機能付き。微量で十分。

 ※測定結果は『評価』形式。数値は不要。】



「そうしたら・・・『新入生歓迎会』だな。楽しんでもらえるよう、ミニゲームを・・・。『たたいて・かぶって・ジャンケンポン』なんて、盛り上がるんじゃないかな?」

「わかりやすいうえに、無駄に盛り上がるのよね。あれ」

 頭を抱えて、薫が頷く。

 お嬢様なのに、ムキになっていたなぁと、カルマは思い出した。


【ゲーム形式:「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」

 ・魔力反応:叩く瞬間に魔力が放出される(無意識)。

 ・防御側は魔法障壁を展開(反射的)。

 ・勝敗に応じてスタンプラリー帳に『勝敗』が記録される。

 ・目的:勝ち負けの判定がのちに賞品の選択などに影響してくる。

 ・副作用:魔力供出(微量)、叩かれるときのわずかな恐怖(ソウルポイント』



「続いては定番行事の『運動会』だ。お客さんたちには大いに競い合っていただこう。勝ち負けをしっかり記録することで、『これには意味がある』とわからせる」

「・・・どんな意味があるの?」

 元陸上短距離のエース裕子が、久しぶりに生えている足をさすっている。


「んー、最終的な『スタンプラリー達成報酬』に差が出るとかだね」

 種類や質に差をつけるのだ。

 ゴールすればみんな一緒、ではない。


「小学校の運動会。100メートル走で一位はノートだけど、順位が下になると鉛筆とかだったのと一緒だね」

「・・・たとえが・・・。わかりやすいけど!」

 ダンジョンっぽくないっ!

 肩にツッコミが入った。

 昔なら跡が残るようなやり方だっただろうけど、今は押された程度だ。

 むしろ心地いい。



「運動会の次は・・・」

 なにがあったっけ?

 考えて思い出した。


「生徒総会だ」

 意見を求めるふりをして、実は意見を縛る会合。


「委員会に強制参加させよう」


 風紀委員は治安維持。

 図書委員は記録の管理。

 視聴覚委員会は行事の内容配信。

 保健委員は回復と健康増進。


「ありふれて見えるけど・・・」

 クスッ、と真梨華が笑った。


 これも、『スタンプラリー帳』に記載。

 のちの評価につなげる。


「で、ついに来ました『中間考査』だ」


 実技。

 武器を使っての模擬戦。(ソウルポイントの吸収)

 魔法による威力測定。(マナポイントの吸収)


 座学。

 ごく一般的な教養問題。

 ただし、筆記具は使うと魔力を消費する。(マナポイントの吸収)

 座学が苦手な者によっては『ソウルポイント』も吸収できる。


 成績はもちろん、記載され評価される。



「この間には『部活動』なんかも盛り込んでおこう。『探索者』が各々やりたいことを選べる形にする」

 文化部になるのか、運動部になるのか。


 もちろん、選んだ『部活』によってスタンプラリーの流れは変化する。

 イベントが変わり、ゲームも変わる。

 当然に『景品』と『賞品』も。


『野球部』なら、千本ノック、ストライクチャレンジ、板抜き。

『バスケットボール』なら、千本シュートやドリブル走。


 ・・・そんなところだろうか。

 『文化部系は謎解き系』、『運動部系はタイムアタック系』と考えておけばいいだろう。



「あとは・・・『ドロップアイテム』や『景品』に『ダンジョン内通貨』を混ぜる」

「通貨というと・・・『お金』ですか?」 

 真梨華が不思議そうだ。


「ダンジョン内でしか使えない『お金』を渡す。で、どこかに『縁日』っぽい屋台のフロアを作るんだ。ゲームしたり食べたりできるようにね」


 屋台で遊ぶ・食べる・景品をもらう → 感情が動く → ソウルポイント発生!

 ゲームには当然に魔力消費があるものも仕込む→マナポイント収集!

 特に「悔しい!」「嬉しい!」みたいな感情が強いミニゲームほど効率が良い。


「・・・なるほど?」

 納得していない顔をされた。

『楽しませるだけ? あなたが?』って顔だ。


「楽しければ楽しいほど、長居する。ポイントを落としてくれるわけだ。悔しくて欠けさせた魂を、楽しむことで修復して、また削る。無限機関が完成する」

 働かせてばかりでは効率が下がるから休暇はやる。

 ただし、休んだならまた働け、ということだ。


「そして、楽しいからどんどん下に来る。・・・帰れるといいな?」

 楽しすぎて帰ることを忘れるかも?

 ちょっと冗談ぽくカルマが言ってみる。


「・・・あぁ・・・」

 妖怪たちが揃って頭を押さえて、息を吐きだした。

 カルマが何をしたいのか、おぼろげに見えた気がしたようだった。


「四季折々のイベントも入れていくよ」


 林間学校、海水浴、花火大会。

 お花見、お月見、雪遊び。

 夏期講習、スキー合宿、修学旅行。


 楽しい思い出とともに、物悲しい別れもある。

 協力して作り上げる、それが終わる。

 青春と呼ばれる儚い『祭り』の時代・・・その幻。

 このダンジョンは『そういうモノ』になる。


「ダンジョンの構造は・・・基本的に板の廊下だな。で、時々教室が見つかる。でも、この教室は必ずしも開いていない。別の教室で何らかの条件をクリアしないと開かなかったりする。部活や委員会選択の結果が影響したりもするかもね」

 部室棟があるフロアでは適応する部の部員になっていないと、入れない。

 体育館に入れるのは『運動部』の部員だけ、とか。


 まさに、『校舎丸ごと使ってのスタンプラリー』だ。


 各教室でイベントを発生、クリアしながら進んでいく。

 手に入る『景品』を先に見せることで、『これ』を手に入れるには『この』ルートを何としても進めないと―――とならせる。


 進み方をある意味縛ることで行動予測をつけやすくする。

 モンスターを適当に配置するのではなく、『どこで』、『誰が』迎えるかを決めておける。

 それが、『スタンプラリー方式』の利点だった。


「スタンプラリーって、『景品』が重要よね?」

「ああ、スタンプラリーの報酬設計か? もちろん考えてあるさ」


 カルマはノートをめくりながら、口元だけで笑った。


「まず、スタンプの数に応じて報酬を段階的に変える。3つ集めれば飴玉、6つでおもちゃ、9つでご褒美。子どもだってわかるルールだろ?」


「・・・子ども扱いしてるの?」と誰かが呟いたが、彼は聞こえないふりをした。


「重要なのは、『全部集めたら何が起こるか』を匂わせることだ。特別な称号、隠し教室、あるいは『記憶の断片』・・・それが何なのかはわからなくても興味は引く。そういうもの。それが欲しければ、全部の教室を回るしかない。つまり、こっちの思惑通りに動いてくれるってわけだ」


 ノートの端に書かれた「模範生徒」「問題児」「委員長」などの文字を指でなぞる。


「称号もいい。探索者の行動を記録し、評価し、ラベルを貼る。『あなたはこういう人間です』ってね。自覚させることで、行動が変わる。・・・いや、変えさせる」


「それって、洗脳じゃ・・・」


「教育だよ」


 カルマはさらりと言い切った。


「報酬は、ただの飴玉じゃない。行動の誘導装置だ。欲望を刺激し、選択を縛り、感情を揺らす。そうして得られる『ソウルポイント』と『マナポイント』が、ダンジョンの燃料になる」


「・・・楽しませてるようで、搾取してるってこと?」


「違うな。楽しませることで、搾取が成立するんだよ」


 彼はノートを閉じて、にやりと笑った。


「さあ、スタンプを集めよう。全部集めたら、きっと『何か』が起こる。・・・帰れるといいな?」


 そう言って、カルマは窓の外に目を向けた。

 ありそうな、でも実際には存在しない、ありふれた風景が見えるだけだ。


『妖怪』たちは気が付かない。

 彼の目に映るその風景には、なぜか『人』だけがいなかった。

 まるで、『誰か』がそこにいたはずなのに、忘れられてしまったように。

『誰か』にいてほしいと願うように。


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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