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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第100話 始まりと終わりと始まりと

2/2

 


 ◇迷宮の変化◇


 呪いが、祈りに変わった。

 それは、迷宮にも変化をもたらしていた。


「やっぱり」

 64階層『糸の部屋』。

 百合根友梨が、ひっそりと頷いた。


 迷宮の変化を確認しているところだった。

『虫』から『妖怪』へ。

『雑木林』から『学校へ』。


 そのスムーズな移行を見守るためだった。

 その途中で見つけた――思い出した――のがこの部屋。

 この『箱』だった。


 一般的な宝箱。

 その中に上半身を入れ、腰から下をはみ出させている女子高生がいる。

 もちろん、心臓はすでに止まっている。


「変化に巻き込まれているものね」

 宝箱の木板が、木造校舎へと変貌していく『ダンジョン』の床と同化しようとしている。


 ミミックが『学校の備品』になろうとしている。

 擬態ではなく同化。

 挟まれている『記憶の器』も、そうなろうとしていた。

 つまり・・・。


「また、妖怪が増えるわけね」

 仲間が増える。

 喜ぶべきか、悲しむべきか。

 悩ましいところだが・・・。


「ようこそ、こちら側へ」

 歓迎の言葉を投げかけた。


 自分は意外にも、妖怪となった自分『雪女:氷室しらゆき』を受け入れている。

 他の者たちもそうであるようだ。

 なら、きっと彼女もそうだろう。


 宝箱から出た足が、ひくひくと動き始めていた。


 ◇追跡行の終了(50階層の)◇


 女教師の反乱は、秒で鎮圧された。

 呪術師が一人で近接職に立ち向かったところで、勝負にはならなかったのだ。

 一人を消し去り、もう一人を叩きのめすのでやっと。

 残りの二人に葬られた。


 だけど・・・。

 その二人は、沈黙に沈んだ。

 捕らえられていた4人がいた。


 女教師が膝をついた瞬間、空気が震えた

 杖が床に転がり、彼女の瞳から光が消える。

 そのとき——通路の奥に並んでいた『箱』が、静かに、音もなく開き始めた。


 木の蓋が、まるで風に誘われるようにゆっくりと持ち上がる。

 内側から、淡い光が漏れ出す。

 それは呪いの残滓ではなく、祈りの名残だった。


 光の中から、ひとり、またひとりと姿が現れる。

 まるで夢から目覚めるように、彼らはゆっくりと立ち上がった。


 女教師の死が、呪いを解いたのではない。

 彼女の『願い』が、箱を開いたのだ。

『呪い』の発動減となっていた女教師が死んだことで、捕らえていた『箱』が開いたのだ。

 そして、そこに教師陣最後の二人がいた。

 箱から出た四人に、ためらう余裕はなかったのだ。


「・・・えっ!? あんたたち・・・!」

 走り始めていた生徒が、思わず足を止める。

 箱から出てきた4人の姿を見て、目を見開いた。


「うそ・・・生きてたの・・・?」

 声が震える。

 ひとりが駆け寄り、肩を抱きしめる。


「よかった・・・ほんとに・・・!」

 涙がこぼれる。

 他の生徒たちも、次々に駆け寄る。


 でも、4人は少し戸惑った顔をしていた。

 箱の中で過ごした時間が、彼らを少し変えていた。


「・・・ごめん、待たせたね」

 その言葉に、誰かが笑った。

 そして、誰かが泣いた。


 それは、呪いの終わりではなかった。

 でも、祈りが届いた瞬間だった。


「他にも追手がいるかもしれない。行こう!」

 残された生徒たちが地上へ向けて、再び走り始めた。



 退避と追跡行の脱落者=生徒6(4名復帰) 教師14



 彼女たちは知らないが、50階層にいた教職員がここで全滅したことになる。

 残るは25階層の14人だ。


 ◇迷宮の再構成◇


「意図しなくても、じわじわと広がっているわけだ」

 ダンジョンの木造校舎化のことだ。


 65階層から下は意図して『木造校舎』として作った。

 だけど、64から上の変更は指示していない。

 だというのに、少しずつ変わりつつあるというのなら、そういうことだろう。


「変に変わられても困るし、進めてみるか」

 下から上へと『木造校舎』にしていこう。


 ―――と、声が聞こえてきた。


【ぶうん、ぶうん 糸車

 宝の箱に 夢を見た

 今年は十六 来年も十六

 指先冷えても 糸は熱い


 ふんふん ブーンぶん

 誰にも見えぬ 糸の道

 巻いてほどいて また巻いて

 終わらぬ歳月 くるくるり


 ぶうん、ぶうん 夜の糸

 喰われし娘の 声が鳴る

 今年は十六 来年も十六

 骨で紡いだ 夢の糸


 ふんふん ブーンぶん

 笑えばほどける 赤い糸

 誰の指にも 絡みつき

 忘れた頃に また結ぶ


 それから娘は 糸を紡ぎ

 ぶうん、ぶうんと 夜を越え

 今年は十六 来年も十六

 誰も知らぬまま 糸は続く


 箱を開ければ 声がする

「ふんふん ブーンふん」 風が鳴く

 糸車だけが 回り続ける

 昔むかしの 話じゃよ】



「・・・・・・」

 聞こえてきたのは『糸の部屋のミミック少女』の声だった。

 何とも言えない、妙な節回しで唄を口ずさみながら『糸車』を回している。


『ランクA妖怪、ブンブン箱(箱入りつむぎ)』、だ。


 糸車の入った箱を担いでいて、ときおり糸を紡ぎ始める妖怪だ。

 もちろん、制服姿で、普通に女子高生だ。


「ドロップアイテムは『糸』だな」

 高性能と評判だったらしい、全ダンジョンのものより品質も上がっている。

 具体的には元が星3だったものが、彼女の手で星4になるということ。

 通常ドロップが星3で、レアが星4ってことでいいだろう。


「持ち場は被服室」

 もしくは『被服準備室』だ。

 どちらもまだないけれど。


「ということで、ダンジョンの設計を始めます!」

 カルマが宣言した。


「おおー」と、合いの手と拍手が上がる。

 妖怪たちが集まってきていた。


「妖怪制作」から今度は、『ダンジョン改築パート』の始まりだった。


 ◇箱と糸車と私◇


 誰にも見つけられなかった。

 声を出しても、手を伸ばしても、誰にも届かなかった。

 箱の中は暗くて、冷たくて、静かだった。

 でも——糸だけは、残っていた。


 指先が覚えていた。

 誰かの袖を縫った感触。

 誰かのほころびを、そっと繕った記憶。

 それだけが、私を『私』にしてくれた。


 私はもう、人間じゃない。

 でも、誰かの服を縫うことはできる。

 誰かの傷を、糸でつなぐことはできる。

 それが、私に残された『手』の意味。


 唄を口ずさむのは、忘れられないように。

 誰かが、私の声を思い出してくれるように。

 誰かが、私の糸を手に取ってくれるように。


 今年も十六。来年も十六。

 止まった時間の中で、私は糸を巻き続ける。

 くるくる、くるくる。

 誰かの記憶に、少しでも絡まるように。


 それが、私の『祈り』。

 それが、私の『始まり』。

 そして、終わらない『糸の道』。



 誰にも見つけられなかった。

 箱の中で、音もなく沈んでいた。

 声は届かず、手も届かず。

 でも、糸だけは残っていた。


 指先に、記憶が絡んでいた。

 誰かの袖のほつれ。

 誰かの涙の跡。

 縫い合わせた日々が、静かに息をしていた。


 私は、もう人間じゃない。

 名前も、年齢も、過去も、ほどけていった。

 でも、糸はほどけなかった。

 それだけが、私の形を保っていた。


 誰かの服を縫える。

 誰かの傷を、そっとつなげる。

 それだけで、十分だった。


 唄は、風に乗るように。

 誰かの耳に届くように。

 忘れられないように。

 思い出の隙間に、そっと結ばれるように。


 今年も十六。来年も十六。

 時は止まったまま、でも糸は回る。

 くるくる、くるくる。

 誰かの心に、ふわりと絡まるように。


 私は、もう妖怪。

 でも、誰かの祈りに触れたとき——糸が光を帯びて、風が私を包んだ。


 人間から、妖怪へ。

 名前のない存在へ。

 ただ、誰かの『ほころび』を見つけて、そっと寄り添う者へ。


 私は、もう語らない。

 でも、唄は残る。

 糸車が回る限り、誰かの夢に、そっと紡がれていく。



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