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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第99話 呪い2 ~呪いの主と使用者~

1/2

 


「・・・捕まった!」


 誰かが叫んだ。

 通路の奥で、仲間の一人が突然消えた。

 叫びも、魔力の痕跡も、何も残さず。


 ただ、空気が一瞬だけ震えた。

 それは、何かが『開いた』音だった。


「・・・ミミック?」


 誰かが呟く。

 その言葉に、何人かの顔が強張る。


 かつて——同じように、仲間が消えたことがあった。

 探索中、宝箱に飲み込まれた少女の記憶。


「・・・あの時・・・」


 その記憶が、誰かの中でよみがえる。

 でも、誰も口にしない。

 誰も、助けなかった。

 誰も、動けなかった。


 そして——その少女は、戻ってこなかった。


「・・・彼女が、呪われていたの?」


 魔術師の少女が震える声で言う。


 問いに答えるように、闇の中から女教師が姿を現した。

 呪術師の女教師は首を振っている。


「違う。彼女『も』呪われてるのよ」


 その言葉に、空気が凍る。


「・・・じゃあ、誰が『呪った』の?」


 女教師は、静かに答える。


「——箱の中で死んだ子よ」


 誰もが息を呑む。

 あの時、助けられなかった少女。

 誰もが、見て見ぬふりをした。

 誰もが、自分の命を優先した。


 その『記憶』が、呪いになった。

 その『怨念』が、形を持った。


「彼女は、今も箱の中にいる。誰にも助けられず、誰にも見つけられず、暗い中で、ずっと待ってるのよ」


 そして——今、彼女は『捕まえ始めた』。


 かつて自分を見捨てた仲間たちを。

 一人ずつ。

 箱の中に閉じ込めて。

 自分がそうされたように、暗闇の中で殺そうとしている。


「・・・呪われてるのは、私たち・・・」


 誰かが呟く。

 何人かが顔を強張らせた。


 あの時、そこにいたのは——今もいるのは——その三人だけだった。


 一人は死んで、もう一人は消えたから。


 通路の奥から——また『開く』音がした。


「さぁ、『糸』はつけた。手繰り寄せるだけ」


 女教師が、狂気の滲む笑みを浮かべた。

 心の奥で、誰かが叫んでいた。


 ◇女教師の葛藤◇


「糸はつけた。手繰り寄せるだけ」


 ——それは、私の声じゃなかった。

 でも、確かに私の口から漏れた。


 呪いを追うたび、胸の奥が熱くなる。

 快感?

 違う。

 これは・・・恐怖だ。


 誰かが、瞳の奥で叫んでいる。

 優しくて臆病だった、昔の私が。


 私は誰?

 呪いを追う者?

 呪いを撒く者?

 境界が溶けていく。

『それ』が、私の中にいる。


「私は教師、生徒を守る立場」

「生徒を殺さなければ、私が死ぬ」

「さっさと捕まえて。呪いが目印になってるから簡単でしょ!」


 三つの声が、頭の中でぶつかり合う。

 守る者。

 殺す者。

 命令する者。


 どれが私?

 どれも私?

 どれも違う?


 でも、気づいた。

 前の二つは『教師』としての私の声。

 三番目だけが異質だった。


『誰か』が、私を通して生徒を追わせていた。

 私は、何のために動いている?


 守るため?

 殺すため?


 ・・・どちらもが『私』の意志でありながら、相反している。

 そこを『呪い』に利用されている。

 それはわかる。

 でも、何が正解かはわからなかった。


 四人目を箱に閉じ込めた。

 それが『正しい』と思っていた。

「箱に入れなければならない」

 理由はなかった。

 ただ、そうすべきだと感じていた。


 でも、呪いとは関係のない生徒が血に染まった瞬間——私の中で何かがはじけた。


 悲鳴も、後悔も、怒りもなかった。

 ただ、静かに、確かに。

 私と『誰か』の意思が重なった。


『生徒を守るのが教師』

『仲間を守りたい』

 二つ目の声、『生徒の犠牲を求めていた声』が消えた。


 意識がとたんにクリアになった。

 なすべきことがはっきりした。


 私と『呪いの主』は、同じ願いを持っていた。


『呪い』は敵じゃなかった。

 それは、守るための力だった。


『捕らえる』は『保護』

『箱に閉じ込める』は『安全な場所にかくまう』


 恐怖に歪んだ視界が、澄んでいく。

 私は教師。『それ』は守る者。

 そして今、私たちは——守る者として、ひとつになった。


 私は、杖を振り上げた。

 狙いは、生徒じゃない。

 斬りかかろうとした『同僚』・・・いいえ、『敵』。


 杖が閃き、空気が裂ける。

 まさかの裏切りに、敵は防御が遅れた。

 信頼が、油断を生んだ。


 一撃。

 それは肉体だけでなく、隊列の『信念』をも砕いた。


「なぜ・・・お前が・・・」


 誰かが呟いた。

 だが、答えは返らない。

 女教師の瞳は、迷いのない光で燃えていた。


 追跡者たちは足を止める。

 混乱と動揺が、彼らの動きを鈍らせる。


 その隙に、生徒たちは息をつく。

 そして、女教師は前に出る。

 生徒たちを背にして。


 退避と追跡行の脱落者=生徒10 教師9


 ◇呪いの主◇


『糸の部屋』——あの場所で、私は死んだ。

 ミミックの罠にかかった瞬間、すべてが終わった。

 仲間たちは、すぐそばにいた。

 でも、誰も助けてくれなかった。


 ・・・助けられる状態じゃなかった。

 それはわかってる。

 あの状況で、誰も動けなかった。

 私が、そうさせたんだ。


 私が、無理をした。

 私が、焦った。

 私が、仲間を巻き込んだ。


 だから、私が死んだのは——当然だった。

 因果応報。

 自分のせいで、自分が死ぬ。

 それは、割り切れる。


 でも、仲間まで巻き込んだことだけは——それだけは、割り切れなかった。


 彼らの瞳に浮かんだ恐怖。

 動けないまま、私を見捨てる決断をする声。

 あれが、私の最後の記憶。


 だから、私は『呪い』になった。

 守るために。

 今度こそ、誰も巻き込まないように。

 今度こそ、誰も失わないように。


『呪い』は、私の後悔の形。

『糸』は、私の未練の形。

『箱』は、私の祈りの形。


 私は、守りたかった。

 ただ、それだけだった。


 ラッキーだった。

 私を殺したのが、ミミック——『箱』だったこと。


 閉じ込める。

 仕舞う。

 隠す。

 守る。


 そんな意味を持つ『箱』に、私は喰われた。

 だから、私は呪いをかけた。


『箱』の中に、捕らえるために。

 仕舞うために。

 守るために。


 普通なら、そんな呪いに力なんて宿らない。

 ただの未練。

 ただの願い。

 ただの、死者の囁き。


 でも、このダンジョンは変わり始めていた。

 何かが、全体に染み渡ろうとしていた。

 空気が、魔力が、構造が——揺らいでいた。


 そして、あの『呪術師』の先生。

 彼女の存在が、私の呪いに力をくれた。


 彼女は『呪い』を利用してくれた。

『私』と繋がることができた。

 そして、生徒を『捕らえた。

 私と同じように、『守ろう』としていた。


 その共鳴が、私の呪いを目覚めさせた。

 未練が、力になった。

 祈りが、術になった。


 私は、ただ守りたかった。

『箱』の中に、仲間を閉じ込めてでも。

 もう誰も、私のように死なせたくなかった。


 だから、私は呪いになった。

 そして今——私の呪いは、彼女の手で形になる。


 ◇呪いと女教師と決着と◇


 私は、守りたかった。

 それだけだった。


 誰かを傷つけるためじゃない。

 誰かを閉じ込めるためでもない。

 ただ——誰も、私のように死なせたくなかった。


『呪い』は、私の後悔の形。

『糸』は、私の未練の形。

『箱』は、私の祈りの形。


 そして今、私の祈りは——彼女の手で形になる。


 女教師は、静かに立っていた。

 彼女の瞳は、もう呪術師のそれではなかった。

 ただ、生徒を守る『教師』の目だった。


 生徒たちを背にして。

 敵に杖を向けて。

 その瞳には、迷いがなかった。


 彼女は、私の声を聞いた。

 私の想いを受け取った。

 そして、私の呪いを『術』に変えた。


「守るために、閉じ込める」

「守るために、捕らえる」

「守るために、戦う」


 その言葉が、彼女の中で燃えていた。


 敵は動揺していた。

 信じていた仲間に裏切られ、隊列は崩れた。

 その隙に、生徒たちは逃げ道を探す。

 でも、女教師は動かない。

 彼女は、ここに残ると決めていた。


「・・・私が、守る」


 その声は、誰にも届かなくてもよかった。

 それは、祈りだったから。

 誰かに向けたものではなく、自分自身の中に灯した、小さな光だったから。


 そして、彼女の背後に『箱』が現れる。

 静かに、ゆっくりと、開く。


 その中には、誰もいない。

 でも、確かに『誰か』がいた。

 祈りの形をした、呪いの主が。


 彼女は、箱に手を伸ばす。

 その瞬間、空気が震えた。

 魔力が、優しく流れ込んでくる。


「・・・ありがとう」


 誰の声だったのか、わからない。

 でも、確かに聞こえた。


 その声は、風のように通路を撫でていった。

 誰にも届かなくても、確かにそこにあった。


 それは、呪いの主の声だったのかもしれない。

 それとも、女教師自身の声だったのかもしれない。


 どちらでもよかった。

 二人は、もうひとつになっていたから。


 そして、箱は閉じる。

 静かに、穏やかに。

 まるで、誰かを優しく包み込むように。


 箱は、もう『罠』ではなかった。

 それは、誰かを守るための『居場所』になった。


 通路の空気が、少しだけ軽くなる。

 霧が晴れていく。

 呪いが、祈りに変わった瞬間だった。


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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