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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第七章:死してもなお

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Episode:20 継承と信頼

 ――シェラ


 濡れた目を擦り、動かなくなった親友を見上げる。


「悪かったな……。話を聞いてやれなくて」


 膝をつき、アーガスにそう呟いた。

 そんな(とき)、部屋に差し込んだ夕日が、彼の左手を輝かせた。

 反射された光に目を細め、俺は顔を傾けた。


「なんだ?」


 確認すると、アーガスの左手には黒曜金級の等級章が握られている。

 首から流れた血が等級章を赤く染め、赤い雫は床に滴る。

 首を掻っ切った剣は右手から落ち、なんの指標にもならないと吐き捨てたはずの等級章は左手にしっかりと握られている。

 まるで、最後の願いを込めたように、すべての指が等級章を強く包み込んでいた。


「黒曜金級……」


 俺はそう呟き、アーガスの顔を見る。

 目は開いたまま。

 瞳に光はない。


「アーガス。貰うぞ」


 俺はそう言って、アーガスの指を一本ずつ外し、黒曜金級の等級章を左手から回収し、雑嚢から取り出した水袋から水をかけた。

 長い爪で優しく固まった血を削り、赤く染まった水が床に撒かれる。


 これは、アーガスの……親友の意思だ。

 

 俺は等級章を首にかけ、ため息を漏らす。

 アーガスをの肩に手を当て、数秒間目を瞑った後に、部屋の扉に向かった。

 取ってを捻り、扉を開ける。


「任せろ」


 小さくそう呟いて、扉が閉まる音を聞いた。



 ――ルイン


 シェラは話終わった後、深呼吸した。

 パチパチと木が割れる軽い音、揺れる炎で黒曜金級の等級章が輝いた。


「アーガス……は、優しい人だったんですね」


「あぁ、きっとそうだ。俺様が話を聞いていれば、もしかしたら、なんで今でも考えちまう」


 シェラはそう話しながら等級章を首にかけた。


「俺様はきっと、後悔してるんだ。冒険者は、手を伸ばすべきだった……困った人間がいたら、手を差し伸べて、聞いてやるべきだったんだ」


「でも、それは……シェラもまだ冒険者になりたてで……」


 シェラの言葉に、僕はそう答える。

 だが、彼はゆっくりと首を振った。


「そうだな、でも、アーガスは俺様に助けを求めた、弱かった俺様にな」


 シェラはそう話し、僕の顔を見つめる。

 その表情には、いつもよりも真剣な意志が、炎が宿っていた。


「だから、助けてやる。死んでも、守ってやる。だから……そうだな、だから…………終わらせろ」


 そう言って、シェラは目を細めた。


「はい!」


 僕がそう答えた直後だった。

 枝が折れる音が耳を刺し、視線と意識が音の鳴った方に引っ張られる。

 シェラも腰を浮かし、すぐに動ける状態を作る。


「なんですかね? ただ、枝が折れたんでしょうか?」


「ちげぇ……上から圧がかかった音だ、枝を踏んだんだ……。ルイン、ディジーを起こせ」


 シェラは左手を背中に携えた大曲剣に手をかけ、ゆっくりと姿勢を高くしていく。

 シェラからの指示の通り、僕はディジーに駆け寄り体を揺さぶる。


「ディジー、起きてください」


「……ん?」


 ディジーが目を擦りながら体を起こすと、それを確認したシェラは焚き火を蹴り上げ火を消す。

 闇に包まれた周囲は、ひどく静かで、何も見えない。


「ディジー、何かいる。明かりは付けるな、俺様は暗くても多少は見える」


 シェラの言葉に、ディジーは外套に手を入れる。

 目が覚めたばかりで、まだ意識が覚めていないというのに、すでに戦闘態勢に移行していた。


「わかった」


 ディジーは地面に手をつき、徐々に姿勢を高くしていく。

 僕もそれに合わせ、視線を巡らせた。


 直後、枝を割る音が増え、次第に近くなる。

 そして、闇が揺らいだ。

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