Episode:1 見かけに寄らず
闇の中に、枝を折る音が響く。
シェラは左手で大曲剣を引き抜き、地面に刺したはずのもう一本を探した。
「シェラ、見えているのかい!?」
ディジーがそう話し、視線を巡らせる。
炎が消えた今、僕とディジーは周囲の情報がない。
「しくじったなぁ」
シェラがそう話した。
僕はその言葉に首を傾げ、口を開く。
「どうしました、シェラ!」
「相手、夜でも見えてんだろ。明かりがないことに気が付かなかった!」
シェラはそう話した。
確かにそうだ、人間の僕や、褐樹人のディジーは数歩先の闇に輪郭が見える程度。
これでは戦うことは出来ない、だから冒険者は松明やランタンを持つのだが、それを持たないと言うことは、夜でもしっかり見えている。
と考えるのが妥当だろう。
「まずいな……」
シェラが舌打ち混じりに呟いた瞬間、木々が揺れ葉が落ちてきた。
「ルイン! よそ見すんな!」
僕が視線を上に向けた直後、正面からの足音に身を屈ませた。
右半身に強い衝撃が走り、体が浮く。
間髪入れずに剣戟の音が響いて、僕は地面を転がった。
「――っ」
右腕をさすりながら、火花が散る闇に目を凝らす。
輪郭だけは、火花が散る度に目に映った。
「速い……なんだこいつ!」
シェラは攻撃をできていない、相手が素早く、隙がないのだ。
剣戟の軌道は、僕も見えなかった。
――天海の涙
ディジーの声が突如響き、水滴が弾ける音が響く。
水面に一滴の雫が落ちたように、綺麗な音だった。
水瓶に入ったような小さな魔具、その効果は絶大だった。
足元の草花、周囲の植物が急激に成長し、黄金の光を放つ。
それはどこか幻想的で、美しい景色と化す。
視界が確保され、シェラの動きが鋭くなる。
僕もディジーも、敵の姿を確認できた。
斥候のような軽装、胴体の革鎧から縫い付けられた頭巾が顔を隠す。
全身が黒い革製の軽装で身が包まれ、桃の色にも似たしなやかな尻尾だけが姿を表していた。
「こんの野郎!」
シェラは相手の腹部に重い蹴りを放ち、衝撃で相手の体は飛び、地面を転がる。
だが、小さな短剣を地面に突き刺して、身を翻しながら立ち上がった。
「うぁー……いったいニャー。腹部は良くないニャ、ほんとに良くないニャ」
高く、柔らかい声。
余裕綽々といったところか、一撃の入った腹部をさすり、シェラを睨む。
頭巾が取れ、ピョコっと猫のような耳が姿を現し、殺伐としたこの空間には合わないほど、耳は忙しなく動いていた。
顔は桃色の毛並みで覆われ、瞳も透き通るような薄い桃色。
体は小柄で、子供と大差ない。
だからこそ、戦いづらくもなる。
「獣人か……」
シェラは剣を握り直し、構える。
「人間、蜥蜴人、褐樹人。うみゃ、いいニェ。すごく、すごく襲い甲斐があるニェ」
直後、彼女の胸元で何かが輝く。
目を細め、凝らすと、銀等級の等級章が光り輝いていた。
黒曜銀級のシェラ、黒曜金級のディジーがいて、いくつも等級が下の獣人に負けるはずがない。
この時は、そう思っていた。
「オメェ……ハーラッシュだろ? 獣人のハーラッシュ」
「ハーラッシュ?」
シェラが牙を剥いて彼女に問いかけた言葉の意味を、僕はシェラに問う。
「略奪者は、正式登録された冒険者だが、他の冒険者から金品を奪って生計を立ててる奴らの総称だ」
シェラがそう話すと、ディジーが外套に手を入れる。
「略奪者なら、手加減はいらないね」
ディジーがそう呟いた直後、獣人の女は小さな短剣を構える。
カチンッ
金色の光を反射する短剣は、赤黒く。
血にも似た色をしていた。




