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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第八章:欺瞞

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Episode:2 駆け引き

 赤黒い短剣が目に入る。

 獣人(アニマ)の彼女が持つあれは、異様な魔力を秘めているようにも見えた。


 シェラの目は忙しなく動き、情報を集めている。

 逃げ道か、作戦か……。

 だが、何も浮かばなかったのかシェラは舌打ちを漏らす。


 彼女の首に掛けられた銀等級の証。

 下から数えれば二番目で、お世辞にも強いとは言えない、ましてや黒曜級二人を相手に善戦するなどあり得ない話だ。

 だが、彼女は略奪者(ハーラッシュ)、等級章さえも他者から奪ったものだとすれば、彼女の真の等級は不明。

 黒曜銀級のシェラと互角に撃ち合う時点で、黒曜級なのは間違いと見ていいだろう。


「どうしますか、シェラ!」


 僕は叫ぶ。

 目の前には相手の出方を読み合い、動けなくなった獣人の女と、シェラ、そしてディジーがいる。

 獣人の女の等級がわからない以上、迂闊に動くのは命取りだった。

 

 直後、獣人の目がこちらを睨む。

 そして、草を蹴る音が静かに響いた。


「ルイン!」


 シェラの声が響く。

 数十歩あったはずの距離は、瞬く間に消えた。


「――早い!」


 赤い刀身が輝き、死を悟る。

 反応できなかった、今回はここで……。


 ――ヴェール・エルキス(銀騎士)


 ディジーの詠唱と共に、地面から銀色の直剣が飛び出して獣人の短剣を弾いた。

 弾かれた直後、体を逸らしながら獣人はディジーを睨む。

 転倒直前、獣人の身体が回転し浮いた。


「――回し蹴り、その態勢から!?」


 黒い下履きを履いた足が、素早くこめかみを貫く。

 脳が揺れ、地面に倒れ込んだ。


「召喚魔術師……相性最悪だニャ!」


 獣人はそう吐き捨て走り出す。

 狙いは、ディジーだった。

 

「まずは、魔術師から!」


 獣人は短剣を握り直し、ニヤリと笑う。

 敵である僕から見ても、彼女の身のこなしは美しく、短剣の軌道も悪くはない。

 確実に入った、そう感じた……だが。


 ガキン


 金属音が響き、再度短剣が弾かれる。

 背後や、木、土の中に空間が開き、そこから銀騎士が溢れかえる。

 その光景を見て、獣人は舌打ちをした。


「なぁ、それ」


 ディジーは獣人を睨み、短剣を指差しながら話す。


「魔剣だろう? 黒曜級二人を目の前に引かないのを見ると、当たれば勝ちの魔剣かい?」


 その言葉に、獣人は一歩身を引いた。


「それに、アタシが銀騎士を出した時、アンタはルインへの攻撃をやめた。それだけの強さがあるなら、銀騎士を薙ぎ倒してルインに短剣を突き立てられたはずだ……魔剣に頼りすぎて、長期戦は無理なのかい?」


 ディジーがそう話しながら、外套の中の魔剣に手を伸ばす。

 そして、ゆっくりと引き抜いた。


「長期戦は無理、確かに合ってるニャ……。でも、

ティーちゃんは覚悟が出来てるニャ」


「は?」


 直後、獣人は勢いよく短剣を投げる。

 冒険者が、剣士が剣を手放すなどあり得ない、その先入観が、判断を鈍らせた。


 銀騎士の間を縫って短剣が進む、かろうじて反応したディジーだったが、耳に少しだけ小さな切り傷を作ってしまった。

 重い音を立てて短剣が木に刺さる。

 それに視線を吸われた直後、獣人はすでに動いていた。


「――ニャッ!」


 声が漏れるほど力み、その状態で繰り出されたのは右の拳だった。

 回避は予測していたのだろう、ディジーが体を逸らせば、背後にあった短剣を抜きやすくなる。

 そこまで計算して、彼女は動いていた。


 高速。

 その二文字がこんなに合う冒険者はいるだろうか、銀騎士ですら反応できない速度、短剣を弾いたのはまぐれではないのだろうが、手を抜かれていたのは明白だった。


 ディジーが地面を転がりながら回避する。

 直後のことだ、周囲が一気に冷え始めた。

 起き上がったディジーの手には透き通る氷のような剣が握られている。


「左手、いただくよ」


 ディジーがそう呟いた直後、獣人の左手が凍りつき、砕けた。


「魔剣には魔剣を……学ばなかったのかい?」


 ディジーはそう話しながら冷気を纏った直剣を構える。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


 ――バシフィールの凍結の魔剣。


 直後、周囲の草花が徐々に凍りつき、吐く息すらも白くなる。

 獣人の舌打ちが、黄金に輝く戦場に響いた。

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