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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第七章:死してもなお

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Episode:17 血に塗れた黒曜級

 ――シェラ


 叫び、怒鳴るアーガスを、俺はただ見つめていた。

 理解はできない、それでも、彼が嘘を言っているようには見えなかった。


「――チクショウ」


 アーガスはそう呟いて、肩を落としながら俺の横を通り過ぎた。


「――どこに!」


 俺は振り返り、彼にそう問う。

 この時の感情は、心配か、興味があったからか。

 あまり記憶には残っていない。


「……進むんだ。変えなきゃいけない」


 アーガスは淡々と話した。

 その瞳に光はなく、すでに諦めてしまった何かを、意地だけで掴もうとしているようにも見えた。


「なんだよ、それ」


 俺の呟きは彼には届かない。

 どこからどう見ても庶民。

 どこの服屋にでもある古臭い上着と、下履き。

 少し汚れたそれは、冒険者にはとても見えない。

 だが、あの力だけは、王都中の冒険者を集めても敵うかは、わからなかった。


 小さくなる背中はいずれ消え、街には喧騒だけが残る。


「あ、やべ……! 依頼」


 俺は、アーガスとの会話で忘れかけていた依頼を思い出し、走り出した。

 今思えば、この時に協力していたら、彼は死ななかったのかもしれない。

 自殺という手段をとらなかったかもしれないと、考えてしまう。


 それから約二十日ほどが経った頃だろうか、依頼が終わり、達成報告をする前に少し腹拵えをしようと、近くの酒場に入った。

 そこで、俺はある噂を耳にする。


「聞いたか?」


「何が」


「あの、世界が繰り返される! って騒いでた男、ちょっと前に冒険者になったくせに、今日黒曜金級になったってよ」


 近くの卓に座る冒険者が話していたのは、アーガスのことだった。

 アイツ、ほんとに強かったんだな。

 俺は心の中でそう思い、近くの給仕を呼んだ。

 酒と、肉を頼み、給仕の姿が厨房に消えるのを眺め、ため息を漏らした。


「さっさと食って、報告するか」


 少し待つと、注文の品が運ばれてくる。

 酒の入った木杯を一気に傾け、肉にかぶりつく。

 塩味が口に広がり、酒が体に染み渡る。


「ごちそうさん」


 俺は腹に物を入れた後、酒場の扉を開け、依頼達成の報告に行く。

 その道中で、すれ違ったのだ。


 街灯がチカチカと点滅するすぐ下を、力無く足を引き摺りながら歩いている人物。

 俺は、その姿に見覚えがあった。


「アーガス……」


「あぁ……シェラか」


 アーガスはそう話して、暗くなった街を睨む。

 人はすでに家に入ったか、酒場以外の灯りは消え、王都の街には静寂が訪れていた。


「大丈夫か?」


「いいや、駄目だね。次にかけるさ」


 俺の言葉に、アーガスは笑いながら話した。

 自嘲も、多少は含まれていたのだろう。

 苦い顔をした後、ため息を漏らす。


「黒曜……金級になったんだってな」


 俺がそう話すと、アーガスは首にかけた等級章を撫でた。


「こんなの、強さの指標にすらならない」


 その言葉に、俺は口を噤む。

 街灯の光が彼を照らし、闇が広がる。


「次が、あるのか」


「あるさ、あるはずだ。俺はまだ諦めてない」


 俺の言葉に、アーガスはそう答えた。

 その声色と、瞳には、もうあの時に見た光は見えない。


 諦めてしまっている。

 まだ少しの希望があった二十日前、何かを手に入れようとしていたあの時とはまるで違う。

 彼はもう、全てを捨ててしまっている。


「話しを聞かせろ。俺様が役に立てることもあるかもしれない」


 俺がそう話すと、彼は目を見開き、俺を見つめて優しく笑った。


「――くはっ! はっは! いいな、それ。じゃあ、そうだな。次、次会ったら。話すさ」


 アーガスはそう笑って話した。

 彼の言った次が、本当の意味の次か、世界が繰り返した後の話か、俺にはわからない。


「あぁ」


 わからないまま、俺は返事をする。


「じゃあ、俺は行くわ」


「わかった。またな」


 そう言って、俺の横を通り過ぎてゆくアーガスを見送った。

 これが、彼と話した最期になる。

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