Episode:16 何も持たぬ者
――シェラ
俺は、王都より遥かに遠い村の生まれだ。
小さい頃はよく水辺で遊び、笑い合っていた。
どこにでもいる蜥蜴人だ。
王都とは別の街で、冒険者になった。
理由は特にない、本当に、ただ興味があった。
俺は飽き性で、挫折癖がある。
少ししくじれば、あぁもう嫌だと、全てを投げ出していた。
だから、いっそのこと次がない冒険者を選んだ。
しくじればそこで終わり。
簡単に死んじまう。
だからこそ、失敗が許されない。
そんな状況下で生きていくのが、俺には合っている気がした。
小鬼を殺し、金を集め、装備を揃え、また別の魔物を狩る。
そんな日を、何日と繰り返した。
首からぶら下げた銅等級の等級章の色は変わらず、変わらない日々を送っていたが、それだけでも幸せだった。
命を賭けた職業だからこそ、生きていると言うありがたさと実感が沸く、俺はその体に染み渡る様な感覚に酔っていた。
だが、飽きは来るもんで、変化を求めて王都を訪れた。
多種多様な種族に、魔力の香り。
一人一人が違う生き方をしている、その事実を肌に感じながら、依頼を受け、金をもらう。
そんな時だった。
依頼書を雑嚢に押し込みながら、街を歩いていると、黒髪の男がものすごい剣幕で俺の装備を掴んだ。
「あ、君!なぁ、君! 助けてくれ、頼む!」
男はそう話し、俺を見つめる。
俺の装備を掴み、揺らし、彼は人目も気にせずに叫んだ。
「俺について来てくれ! あんたを鍛えられる、黒曜金級なんてすぐだ、手伝ってくれ!」
彼はそう言った。
自信のある声、話し方。
本能では、彼の言っていることは嘘ではないとわかっていた。
だが、それが逆に異常なまでの疑いを産む。
俺は彼の腕を掴み、振り解こうとするが、いくら力をこめてもできなかった。
「――っ! 何言ってんのかわかんねぇんだよ!」
俺はそう言いながら、渾身の力で彼の胸を押した。
装備が指から滑り、彼は離れる。
胸元に手を当てながら、彼は俺を睨んだ。
「――俺の名前はアーガス・ティルデ! 世界は、何度も繰り返されている!」
アーガスと名乗った男は確かにそう話した。
瞳に宿る光には、嘘偽りがない。
だからこそ、俺は恐怖した。
世界が繰り返されているなど、天地がひっくり返ってもあり得ない、だが、アーガスは信じていたのだ。
「っな……。――何言ってんのかわかんねぇんだよ! オメェ、イカれてんのか!」
「シェラ! 君は、強くなれる、前回も、その前もそうだったんだ!」
アーガスは俺を見つめながら、捲し立てた。
「なんの話だ、俺様はオメェをしらねぇ!」
俺がそう答えると、彼は苦い顔をした。
そして、何かが爆発する様に叫び出した。
「なんで、なんで覚えてないんだ! 君は、何回も俺と旅をしている! なんで、ただの一つも残っていないんだよ!」
アーガスはそう話し、息を切らしていた。
その顔は、苦痛と、苦悩と、絶望が溢れていた。
俺は何も口にできず、アーガスを見つめ、ただ立ち尽くす。
この時の俺には、彼が何を言っているのか理解が出来なかったし、異常に見えた。




