Episode:12 嵐の鳥2
――エルナ・フィルト。
詠唱と共に僕の右手から放たれた風の魔術は、不可視の刃となり、空を縦横無尽に飛ぶ嵐鳥の群れの何羽かを切り刻んだ。
バラけた胴体から鮮血が吹き出し、血の雨が降り注ぐ。
血生臭い香りと、生々しい水音が石畳の地面を叩いた。
「よくやった!」
シェラがそう叫ぶ。
血の雨が降る中、鱗が汚れることも気にせず彼は笑っていた。
嵐の鳥、バリス。
この魔物がそう呼ばれる所以は、どこにあるのか。
ただ飛び回るだけの大きな鳥ではないはずだ。
その所以を知るのは、案外早かった。
バリスの群れは、仲間が地に堕ちた光景を目の当たりにし、狂ったように鳴く。
それは怒りか、悲劇を叫んでいるのか、言葉のわからない僕たちには到底理解できない。
「おーおー……仲間が殺されて相当ご立腹なようだぁ」
シェラはそう話しながら眼を動かす。
細く、鋭かった瞳孔は完全に開き切っており、戦闘を楽しむ意思が、瞳に宿っていた。
直後の事だ。
茶色い何かが、頬を掠めた。
速すぎて見えなかった、甲高い音が足元から響き、僕は背後の地面に眼を落とす。
そこには、しっかりと刺さっていた。
鳥の羽だ。
「――っえ?」
羽を認識した直後、掠めた頬がゆっくりと裂け、血が滲む。
傷口は浅い。
血の量は少なく、頬を伝うのにも刻を要する……だが、その刻が、今はより残酷に現れた。
「来るぞ!」
「アンタたち、盾!」
シェラの叫び声とほぼ同時に、ディジーは銀騎士に指示を出す。
弓を握っていた弓兵は、瞬く間に大型の盾を構え、シェラと僕、そしてディジーを囲むように盾を構えた。
直後、嵐のように羽が飛び交う。
嵐の鳥とは、四方から人を貫くほどの強度を誇る羽を、武器のように飛ばす事から由来している。
まさに、嵐鳥の名に相応しい。
「耐えろよ!」
シェラがそう叫ぶ。
「どのくらいですか!」
僕が返した言葉に、シェラは首を振ってニヤリと笑った。
「さぁなぁ!」
「アンタ達! 集中するんだよ!」
シェラの返事に被せるように、ディジーが叫んだ。
顕現した銀騎士の盾に、羽が突き立てられ金属音が響く。
無数の羽音、金属音、突風。
どう考えても、この状況を打開するのは不可能に近かった。
「ディジー! 何か策はないのか!」
「あるよ、今からするさね!」
シェラの言葉にディジーはそう叫び、外套から赤い魔石が埋め込まれた指輪を取り出す。
それを左手に嵌め、僕たちを見つめた。
「姿勢を低く!」
ディジーのその言葉で、僕とシェラはしゃがみ込む。
反対に、銀騎士は跳躍し、羽を受けに行った。
勇敢にも、蛮勇にも見える。
太陽の下で、銀騎士が砕け、光る粒子に変化する頃、視界を赤が染め上げた。
――ディア・フルール。
ディジーの詠唱の直後、指輪が光り輝き、激しく火を吐く。
それは継続的に吐き出し続け、いずれ炎の体を持つ蛇のように波打ち、うねりながら群れを焼く。
黒く焦げたバリスの群れが、鈍い音を立てながら地面に堕ちた。
頭を少し上げ、一人立つディジーを見つめる。
これが、魔具の力か……。




