Episode:11 嵐の鳥
大きな羽の音を鳴らしながら、空を飛び回る。
「嵐鳥だ!」
シェラは確かにそう叫んだ。
バリス。
鷹より、鷲よりも遥かに大きい。
足先から頭までは成人した人間に匹敵するほどの大きさをもち、羽を広げた姿は空を支配する生物のように威圧感がある。
巨大な体躯からは考えられない速度と、掴んだ獲物を逃さない鉤爪。
鋭い目を開き、眼球を動かして僕らを睨む様は、まさに狩る側に立っている者のそれだった。
「ディジー! 撃ち落とせ!」
シェラがそう叫ぶと、ディジーは舌打ちをして腕を開く。
銀髪の髪が宙に浮き、紫色の瞳がバリスを睨んだ。
――ヴェルーデ。ヴェール・エルキス。
ディジーの詠唱が終了した直後、彼女の背後の空間から、鎧と音がする。
そして……。
ヒュンッ
風を切る音が一瞬だけ響き、バリスの一羽が地面に堕ちた。
「……なんだ?」
ピクリとも動かなくなったバリスの死体に目をやると、胸には一本の太い矢が刺さっている。
そこで、僕は振り返り、ディジーが何を呼んだのかを理解した。
「弓兵……!」
僕はそう呟いていた。
ディジーの後ろには、すでに十体ほどの弓を持つ銀騎士が空を見上げる。
獲物を見つけては、弓を構え、射出する。
「ルイン! よそ見しない!」
「は、はい!」
ディジーの声が響き、僕は視線をバリスに戻す。
そして、右手を突き出した。
速度が必要だ。
生物なら炎だろう。
「――ディア・フィルト」
僕の詠唱直後、突き出した右手には火球が生み出され、周囲の酸素を取り込みながらゆっくりと大きくなる。
そして、放たれた。
縦横無尽に飛び回るバリスの群れに撃ち放たれた火球は、獲物を捉えたかのように見えた。
結果は、何も焼かずに空に消えるだけ。
フィルトの魔術は、速効性がある。
詠唱から放たれるまでも早く、魔術そのものの速度も速い。
だがらそれは鈍足な魔物、一般人に対しての話だった。
空を飛び回るバリスの群れには、遅く効果がない、特に直線など、回避をするのも容易であった。
「――っ! 当たらない!」
僕は歯を食いしばり、小さく呟く。
その声に、僕の肩を叩きながらシェラは口を開いた。
「あぁ、当たらねぇな! なら考えろ、魔術は自由だ、体系も形式もオメェの意のままにできる。考えて考えて、ぶち込んでやれ!」
シェラはそう話しながら、背中から大曲剣を二本引き抜いた。
「まぁ、俺様は空に関しては戦力外だ。苦手も苦手。でもまぁ、オメェら二人の詠唱を、守ることは出来るからよ」
そう話すと、シェラはニヤリと笑った。
その背中を見て、僕は少し笑う。
どんな場面でも、彼は前に立っていた。
優しく、強く、そして……間違っていない。
「シェラ! ディジー! バリスの動きを一瞬だけでも止められますか!」
僕がそう叫ぶと、それに答えたのはシェラの声だった。
ディジーが召喚した銀騎士が矢を穿ち、飛び交う中、シェラの声はハッキリと聞こえる。
「いけるぜ! 一瞬でいいんだな!」
「お願いします!」
僕の返答に、シェラは大曲剣を握り直し、酸素を取り込む。
分厚い胸板が膨らむように、服の上からでも体が大きくなっていくのがわかった。
それを確認して、僕はバリスの群れに右手を突き出す。
速度だ、炎よりも早く。
僕が今扱える魔術……!
「――エルナ」
頭の中で想像を膨らませ、形にする。
小さく呟かれた詠唱と共に、右手には透明で見えない何かが、ゆっくりと形成されていた。
直後、竜の声が響く。
竜の末裔である蜥蜴人の方向。
それは街を一夜にして壊滅させた、竜と呼ばれる魔物の咆哮に酷似している。
生物の頂点に立つ竜の方向を聞いたバリスは、一瞬だけ動きが鈍る。
周囲を警戒し、自身が生き残るために頭を使うのだ。
「ルイン! 今だ!」
シェラの声と共に、僕は小さく呟いた。
「――フィルト」
詠唱の直後、右手から放たれた不可視の刃。
風の力で胴体を切り裂く魔術……。
それは確実に、バリスを捉えていた。




