Episode:10 街道
砂の被った石畳の道を、僕は足音を奏でながら歩く。
直上にある太陽が僕らを見おろし、ギラリと肌を焼いた。
「あっちぃ……」
黒い鱗の生えた蜥蜴人、シェラがそう呟いた。
蜥蜴人だからか、熱に弱いのか。
王都では店頭から流れる冷気などが身を包み、太陽の日差しの下でも、涼しさがあった。
だが、森と、低い山に囲まれた街道は、遮るものがなく滞留した熱気が身を包む。
「だ、大丈夫ですか?」
僕はシェラを見ながらそう話した。
彼は小さく首を振り、舌を出しながらだらしなく文句を垂れている。
黒曜銀級とは、一眼ではわからないだろう。
「にしてもよぉ〜……。ディジー! なんでオメェは汗ひとつかいてねぇんだよ!」
シェラは怒りが爆発したように、地団駄を踏みながらディジーに叫ぶ。
耳元で叫ぶシェラに、心底嫌そうな顔をしてディジーは一歩離れた。
だが、シェラの話は事実だった。
太陽の下、直射日光が当たっている。
ディジーの銀髪は腰より長く、毛量もある。
それに加えて、脛まではある漆黒の外套、太陽の光を、熱を吸収し、熱を籠らせる彼女の格好は、汗ひとつない状況と矛盾していた。
「うっるさいわねぇ……。暑いなら興奮するんじゃないよ、馬鹿なのかい?」
「馬鹿じゃねぇよ! 噛みちぎるぞこの野郎!」
シェラの返答に対して、ディジーは呆れたようにため息を漏らした。
遠い目をしているディジーを見つめ、僕もため息を漏らす。
彼女の耳元でシェラは叫び続けるが、彼女の耳には入っていないようだった。
「でも、本当に汗をかいている様子はありませんね、なぜですか?」
僕がそう話すと、ディジーは目を瞬かせて左手を見せてきた。
「指輪だよ」
「指輪?」
ディジーが差し出した左手には、人差し指と中指に緑色の魔石が嵌められた指輪型の魔具がある。
これが関係しているのか……。
「えっと、これが何を?」
「魔具のことは具体的には教えられないけどね。副作用みたいなもので、体感の温度を下げるのさ。だから、アタシは暑くないってこと」
そう話しながら、銀色の長髪を靡かせた。
「なるほど」
僕が頷くと、ディジーは中指から指輪をひとつ外し、僕に手渡してきた。
「身につけてな、少しはマシになるさ」
ディジーは優しく笑いながらそう話す。
僕は頷いて彼女の右手から指輪を受け取り、自身の左手に嵌める。
するとどうだろうか、体の中から異様な冷たさが込み上げ、体を冷やす。
「すごいですね、これ」
「そうだろう? 世界には面白い魔具が溢れているんだよ」
そう言いながらディジーは腕を広げ、少し子供っぽく笑った。
「うっわ、ずりぃ。ルイン、俺様にも貸してくれよ」
「えー、どうしましょうかねぇ」
シェラと話していると、突如頭上から無数の羽音がした。
シェラの動きが石像のようにピタリと止まり、色彩豊かな瞳だけが忙しなく動く。
彼の鋭い瞳孔は、徐々に丸く広がり、戦闘態勢に切り替わる。
「今の……数が多くねぇか?」
「あぁ、珍しいね。群れても大した脅威にはならないけど、群れる事がない魔物だよ」
シェラの低い呟きに、ディジーが周囲を警戒しながら話す。
直後、羽音が大きくなり、地面に影が映った。
鳥……とはまた違う。
影は似ているが、何かが……。
僕はゆっくりと視線をあげると、数十羽という数の大きな鳥が、空を舞っていた。
鋭い爪、飛ぶ力は強く、速い。
鷹や鷲よりも遥かに大きい、鳥の群れ。
「嵐鳥だ!」
シェラの叫び声と共に、大きな影が動き出した。




