Episode:9 別れの言葉
僕はゆっくりと立ち上がり、シェラとディジーを見つめる。
「ありがとうございます」
そう話すと、ディジーは右手をヒラヒラと振りながらため息を漏らした。
「別に。というか、東の果てなんて何日かかるのかもわからない状態だろう? 今すぐにでも出立したほうがいいんじゃないかい?」
ディジーは腕を組みながらそう話す。
その言葉に、僕は頷いた。
「はい、なので、すぐにでも王都を出ます」
僕がそう話すと、ディジーは目を見開いた。
横にいたシェラは、慌てた様子で口を開く。
「ま、待て。友人や、家族に出立を知らせなくていいのか、心配するだろう」
シェラはそう話した。
アーガスの件もある。
素性のわからない僕が、小さく呟いただけで剣を抜いたのだ、絆とか、友情や信頼は、彼に取ってはものすごく大事なものなのだろう。
「大丈夫です、前回言ったので」
僕がそう話すと、シェラは少し考えた。
驚いたような表情で固まっている。
「いや、でも……」
「大丈夫です……。前回、言っていますから」
シェラの言葉に、僕は彼の目を見ながらしっかりと話す。
僕の言葉を聞いたシェラは、悔しそうで、悲しそうな顔をした。
「行きましょう」
僕はディジーに視線を移し、そう話す。
彼女もまた、僕を見つめて心配そうな顔をする。
「あ、あぁ」
ディジーの歯切れの悪い言葉。
言葉と呼ぶのも憚れるような、弱々しい返事は、綺麗な空に消えた。
王都の門をくぐると、門番の声が響く。
「ルイン……? どこに行くんだ」
王都に入る際、通行証を見せたおじさんだ。
「ちょっと、外に行きます」
「実技試験だろ、サボるのか?」
僕の言葉に、おじさんは低い声で呟く。
シェラとディジーはため息を漏らしながら待っていた。
「大事なことがあるんです」
「冒険者二人を連れてか? それも、異種族……蜥蜴人と褐樹人じゃないか」
おじさんはそう話しながら、ため息を漏らす。
そのため息の大部分は警戒と、落胆の意が込められていた。
「おじさんに関係ありますか」
「小さい時からお前らを見てる、心配することさえも、お前はダメだって、そう言うのか?」
僕の言葉に、おじさんは低くそう呟いた。
「エヴァは、家族はどうする。別れの言葉はないのか」
続けて話されたその言葉に、僕は歯を食いしばる。
拳に力を込め、口を開いた。
「何も……。――何もし……」
我慢の限界か。
口から漏れ出し、紡ぎそうになった言葉は、シェラが僕の肩に手を置いたことで止められた。
シェラの顔を見ると、彼は悲しそうな表情で首を振る。
そして、おじさんに話しかけた。
「俺様と、こっちの褐樹人は、黒曜銀以上の冒険者だ。王都の外に、ちと用があってな。散歩みたいな感じだ。俺様達は強い、ルインの身の安全は保証する。だから、まぁ、見逃してくれねぇかな。実技試験に関してはよくわからねぇけど、大事なんだよ、すごく」
そう話したシェラは、今までのどの場面より、優しかった。
「それを、信じろと? 小さい頃から、今まで見てきた子供達の未来を、冒険者の言葉で潰してもいいと? 黒曜級がどれだけ信頼されてるかは知っているつもりだ。俺も、昔は冒険者だった。だとしても、受け入れられない」
おじさんがそう話すと、ディジーがシェラを押し退け前に出る。
そして、彼女は少し声を荒げて話した。
「実技試験がどれだけ大事かは知っているさ! でも、学校では得られない経験ってのも、この世界には溢れてる……現実的じゃない、実践的じゃない魔術ばかり扱うなら、誰だって出来るさ! ここが少年にとっての分かれ道なんだ! 成長を見守っていたなら、だからこそ……ここは行かせて、さらに成長して帰って来いって言うもんなんじゃないのかい!?」
ディジーがそう言うと、おじさんは少し唸った。
そして、諦めたようにため息を漏らす。
「エヴァと母親には、俺から伝えておく。死んだら許さない、覚えておけ」
おじさんはそう呟いた。
僕は頭を下げ、王都から出る。
森に囲まれた街道。
東の果てを再度目指し、歩き出した。




