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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
序章:平和な日々

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Episode:8 道標

 夕日が顔を出し、校庭を赤く染める。

 実技試験が終わり静かになった校庭には、魔力の微粒子だけが漂っていた。


 僕はまだ、救護室にいる。

 病床から出ることは、この時間になるまでできなかった。

 今は体内の魔力が微量ではあるが回復し、体が動くようにはなってきた。


「……行くか……」


 僕は力無くそう呟き、布団をめくって病床から足を投げ出す。

 床に足がつけば、ギシッと音が鳴る。

 ひんやりとした床、近くにあった靴を足で手繰り寄せ、履いてから靴紐を結ぶ。


 ギュッと靴紐を縛った瞬間、黒い蜥蜴人(リザードマン)との会話が頭の中で繰り返された。


 努力も碌にしていない……か。

 頭の中で響いたその言葉が、胸を締め付けた。

 僕は悔しさと共に歯を食いしばる。


「……何も知らないくせに」


 そう呟いて立ち上がり、少し歩くと壊れた扉が目に入る。

 力任せに破壊された扉、蜥蜴人は力加減が出来ないのだろうか。

 乱雑に投げたせいか、壁にも小さな穴が空いている。

 扉の角が当たったのだろう。


「乱暴なやつ」


 僕はそう呟いて、扉を踏み、救護室を後にした。


「あ、ルイン!」


 救護室を出て歩いていると、後ろから聞き馴染みのある声が響いた。

 僕は足を止め、ゆっくりと振り返る。


「……エヴァ」


「また救護室にいたの?」


 エヴァは青い髪を揺らしながら、笑って話しかけてきた。

 こちらに近づいてくる足取りは軽やかで、肩の重荷が降りたようにも見える。

 悩みなど、一つもないと……そんな状態に見えた。


「またって……僕はそんな頻繁に救護室にいないよ……」


 これが、精一杯の反論だった。

 いつもの僕なら、笑って、何言ってるんだって、馬鹿にしてるなって言えただろう。

 だが、今は無理だった。

 蜥蜴人の言葉が、脳内で繰り返され、エヴァの発した『また』という単語が胸の奥深くに突き刺さる。


「何かあった……?」


 エヴァは何かに気がついたのか、そんなことを呟いた。

 目を細め、心配そうに呟く。


「……どうしてそう感じるんだ」


 僕はそう返答した。

 もしかしたら、少し冷たい返しだったかもしれない。

 でも、出してしまったものは、もう引っ込められない。


「辛そうな顔してる」


 エヴァは短く、乾いた声でそう話した。

 夕日が差し込む廊下……僕は窓の外を見つめた。

 静かな空間、なのに、心は騒がしかった。


 窓に表情が映る。

 そこにいたのは、顔に表情がなく、瞳から光を失った自身の姿だった。


 目指すものも、理想も、何もかもを失ってしまった僕自身だった。

 道標は今日、蜥蜴人に言われたあの一言で途絶えた。


 ため息を漏らし、エヴァに視線を移す。


「そっちは、うまくいったか?」


 僕が口にしたその問いに、エヴァは拳を握って俯いた。

 そうしてゆっくりと話す。


「推薦……有名な魔術師のところに……。学校を卒業したら、そっちに行く……」


 僕はそう聞いて、口角が上がる。

 人間は、辛いと笑うのか。


「そうか、そうだよな……エヴァは優秀だ。だから……なんだ、よかったな」


 僕の言葉に、エヴァは顔を上げる。

 僕を睨むエヴァの目には涙が溜まり、悔しさと怒りを抑え込んでいるようにも見えた。


「馬鹿……」


「……知ってるよ」


 エヴァが呟いた言葉に、僕はため息を漏らしながら返す。

 この時、僕はどんな表情をしていたのかわからない。


 ため息を呑み込み、窓の外に再度視線を移す。

 大地を赤く染める夕日は、僕の心を優しく包んでくれているような気がした。

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