Episode:7 どうせ無理
目を覚ますと、真っ白な天井が視界に広がる。
ギシッと音を立て、上体を起こすと、窓の外から魔力の流れを感じ、視線を向けた。
向けた先には校庭があった。
窓の奥では、まだ実技試験をやっている。
僕はまた、ダメだったのか。
魔力を使い果たしてのダウン。
また迷惑を……。
ため息を漏らし、ただ校庭を眺める。
直後、救護室の入り口、木製の扉が破壊された。
「あ、やっべ……壊しちった。人間が使ってるものは脆くて仕方ねぇな」
何処かで聞いたことのある声、まだ記憶に新しい。
知っている足音。
心臓が高鳴り、血液が沸騰するような感覚。
僕は今、恐怖と興奮を同時に感じている。
そして、足音と共に視界に現れたのは、岩人形を剣術のみで破壊したと言われる、蜥蜴人だった。
「ウィッスゥー。魔力の残り香がヤベェ。マジくせぇぞ」
そう話しながら、黒い蜥蜴人は僕を睨んだ。
「あんちゃん、おめぇ……強かったんだな」
「ぼ、僕は強くないですよ」
黒い蜥蜴人の言葉に、恐怖しながらも小さく反論する。
魔術を中心とした世界で、魔術の使えない僕は、お世辞にも強いとは言えなかった。
「校庭に溢れる魔力の残り香、全部おめぇだろ?嗅いだだけで全身の鱗が逆だっちまうくらい、深ぇ匂いだ」
黒い蜥蜴人の言葉に、僕は首を傾げる。
「密度がヤベェんだ」
そう話す黒い蜥蜴人。
僕は彼を見つめ、ため息を漏らした。
「他の人の魔力も溢れてますよ」
そう話すと、蜥蜴人は首を小さく振る。
「おめぇのは全く匂いがちげぇ。魔力の匂いが混ざり合っていても、一際目立つ。不思議な匂いだ」
蜥蜴人はそう話しながら自身の足を叩いていた。
さも楽しそうに……。
「おめぇ……俺様と勝負しろ」
蜥蜴人が低い声で唸った。
上機嫌、笑っていた表情から一変。
真剣で、圧を感じる表情と声に移り変わる。
「……何を言ってるんですか……?」
「俺様はつえぇ奴を探してる。ずっとな……。だから、俺様と勝負しろ」
蜥蜴人はそう話した。
僕はその言葉に目を見開き、布団を握る。
恐怖は少し、それよりも大きかったのは悔しさだった。
「僕には無理です。魔力が上手く操れない……」
「操れないから、無理なのか?」
僕の言葉に、蜥蜴人はため息を漏らしながら僕を睨む。
色彩鮮やかなその瞳には、期待と、落胆と、怒りが混ざっていた。
「練習すればいいだろう」
「してないと思いますか?」
蜥蜴人の言葉に、僕は少しだけ強く反論した。
「生半可な努力じゃあ……操れないだろうなぁ……この魔力量だ……制御はやべぇ難易度だろうなぁ、でもなぁ、時間をかければ、できるかもしれねぇ」
「人間はあなた方みたいに長寿じゃないんです」
「だったら、死の淵に何度も立つくらいの出来事があれば、数年で覚醒できるかもなぁ?魔力が操れなきゃ、死ぬんだから」
蜥蜴人は牙を見せ、ニヤリと笑いながらそう話す。
僕は彼から視線を逸らし、俯いた。
視界には白い布団。
真っ白……。僕みたいに、何もない、白だけ……空っぽ。
「僕には……どうせ無理です」
そう呟いた瞬間、黒い蜥蜴人は小さく舌打ちをして、踵を返した。
「あっそう……冷めたわ……。努力も碌にしねぇで無理無理って、ガキかよ」
そう言って蜥蜴人は歩き出す。
「よいっしょ」
そう呟きながら、蜥蜴人は破壊した扉を持ち上げて嵌めようとする。
破壊したものは戻らない。
何回か試した後、苛立ちを見せるように扉を乱暴に投げ、大きなため息を漏らし、小さく呟く。
「クソッタレ」
蜥蜴人は、そう言い残して、救護室から出ていった。
小さくなる足音を聞き、僕はため息を漏らす。
一人になった救護室。
僕は窓の外に見える校庭に視線を向け、実技試験をしている生徒が魔術を成功させて喜ぶ姿を眺めていた。
歓声が耳に入るたび、胸が締め付けられる。
僕は……落ちこぼれているんだ。
夕日が差し込む救護室には、一つ、大きなため息が響いた。




