Episode:9 向かう場所
夕日が差し込む廊下。
僕の前には、涙を溜めたエヴァが何も言わずに佇んでいた。
「……これからどうするの?」
エヴァは乾いた声でそう話す。
話したくて話した……と言うより、何か話さなくてはと思って話したような。
そんな声色だった。
「……さぁな」
僕は拳を握りながらそう答えた。
悔しさと、動けなくなった自信の足に苛立ちを覚え、歯を食いしばる。
蜥蜴人の言葉で、止まっている自分が情けなくも感じた。
「取り敢えず、もう学校に用はないから、帰る」
僕はそう言って、歩き出す。
エヴァの横を通る瞬間、エヴァの口から音にもならない戸惑いの声が漏れたが、僕は耳を傾けずに歩みを進めた。
外は暗くなり、街灯が街を照らす。
僕は王都から離れた自宅の窓から、光り輝く王都を見つめ、ため息を漏らした。
「失敗か……」
涙も出ない。
失敗はいつも通り、エヴァからかけられた言葉だって、いつも通りだったはずだ。
だけど、どこかが違っていた。
翌日、朝の光が瞼を刺し、僕はゆっくりと目を開ける。
体が重い。
心が重い……。
一日経った今でも、蜥蜴人の声が頭から離れなかった。
「……はぁ」
ベッドから起き上がることもせず、ただ布団を被る。
起き上がれない。
起き上がりたくない。
全てがめんどくさく、嫌になってしまった。
「ルイン! エヴァちゃんきてるよ! 早くしなさい!」
母親の声が下の階から響き、僕の耳に突き刺さる。
エヴァは懲りずに僕を迎えにきた。
昨日、情けない姿を見せ、その場から逃げるように帰った僕を、彼女は迎えにきたのだ。
「ルイン!」
母親の声がさらに大きく響く。
なかなか降りてこない僕に苛立ちを覚えているのだろう。
僕は布団を蹴り飛ばし、ベッドから立ち上がる。
窓を開けて、扉の前で立つエヴァを見下ろした。
「エヴァ、僕は今日学校に行かない」
「あ、上か。サボるのは良くないよ、ルイン」
注意とも取れるその言葉には、ただの叱責ではなく、柔らかい何かが混じっている。
「サボりじゃない。体調が悪いんだ」
「嘘でしょ、負けたのがそんなに悔しいの?頑張ればいいじゃん」
僕の言葉に、エヴァはそう返した。
その言葉に、僕は歯を食いしばり、拳を強く握る。
「エヴァにはわからないよ。初めから才能がある人間に、僕の事はわからない」
そう話すと、エヴァは拳を握り、眉を歪めた。
「私が努力してないっていうの?」
「才能がある人間の努力と、才能がない人間の努力は違う」
僕のその言葉に、エヴァは怒りの表情を見せ肩を震わせた。
だが、すぐに諦めたかのようにため息を漏らす。
「あっそ、じゃあ閉じこもってなよ。努力も全部辞めて、全部諦めて、部屋の中で泣き喚いてればいいじゃん。私はもう知らない」
エヴァにその言葉を言われた直後、脳裏に黒い蜥蜴人の言葉が蘇る。
忘れかけていた、呪いの言葉が一瞬にして蘇ったのだ。
僕は窓から離れ、ベッドに座る。
そして、拳を握りながら、諦めに近いため息を長く漏らした。
「黙ってろよ……」
僕はそう呟き、ベッドに横たわる。
歯を食いしばりながら、ゆっくりと目を閉じた。




