表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
序章:平和な日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/79

Episode:10 初めての感覚

 窓の外から、足音が遠ざかる音がする。

 目を瞑り、真っ暗な視界だからこそ、聴覚が研ぎ澄まされて聞こえたのかもしれない。


 エヴァには悪いことをした。

 罪悪感が心を蝕むが、それ以上に、蜥蜴人(リザードマン)の言葉が突き刺さる。


 僕は……努力をしていなかったのだろうか。

 頑張っていたはずだ。

 魔法が中心となるこの世界で、魔法が使えない僕は問題児。

 そんな状況を、環境を変えようと試行錯誤して、目標を立てて走っていたはずだ。


 うまく行かないことなんて何度もあった。

 その度にやり方を変え、実行した。

 それでもダメだった。


 強者から見れば、僕の頑張りなど、興味すらない。

 成長につながらないなら、おそらく努力していない、そんな見方なのだろう。


 目頭が熱くなり、ほんの少しの涙が目尻から零れ落ちる。

 もう、全てが嫌になってしまった。

 

 魔術も、世界も、嫌になってしまった。

 僕自身のことも……。


 もう、疲れたんだ。


 それから数日間、学校へは行かなかった。

 毎日エヴァが迎えにきたが、蜥蜴人の言葉と、エヴァから逃げたくて、首を縦に振ることはなかった。


 それでも彼女は毎日足を運び、声をかけ、ため息を漏らして去っていく。

 そんなことをさせている自分自身が情けなくて、目も見れなかった。


 そして、王都の祭りが明日に控えた日の夕方……。

 エヴァは学校が終わった後に、僕の家に上がり込み、部屋にまで侵入してきた。


「いつまでそうして閉じこもってるの?」


 扉を開けて入るなり、優しくも怒気を含んだ声で、エヴァは話した。

 僕はベッドに座ったまま、エヴァを見上げる。


「……なんで部屋まで来てるの?」


 僕は、気がついたらそう喋っていた。

 特に意識はしていない。

 ただ、純粋な疑問として、エヴァに投げかけていた。


 エヴァはそんな僕を見て、ため息を漏らす。


「最後に太陽の光を浴びたのはいつ?」


 そう言いながら、エヴァは窓の外を一瞥した。

 

「さぁ……」


「あれから外に出てないの?」


 僕の曖昧な態度に、エヴァはため息を漏らす。


 エヴァの言う通り、僕は外に出ていない。

 もっと言えば、部屋から出たかすら記憶にない。


「太陽は浴びなきゃダメだよ……。明日、王都でお祭りがあるの覚えてる?」


 エヴァはそう呟く。

 その言葉に、僕は首を傾げた。

 そんな話もあったかもしれない。

 数日前の記憶を遡るが、空っぽの頭で思い出すのは非常に難しかった。


「言ったじゃん。覚えてないのね……? 王都の祭りは十刻(じっこく)あたりからやるみたいだし、明日は学校もないから一緒に行こ」


「えー、めんどくさい」


 僕の言葉に、エヴァの顔が少しだけ険しくなる。


「めんどくさいじゃなくて、外に行くの! ルインは理由がないと動かないからねぇ。別に、ルインがいなくても、私一人で行くけど……。人がいっぱいいるし、何か起きても知らないぞー」


 エヴァは意地悪くそう話した。

 何か起きる……

 多種多様な種族が入り乱れる王都では、争いが絶えない。

 それに巻き込まれたりなんて考えたら……行かないわけがなかった。


「わかったよ。明日、十刻だね? 九刻(きゅうこく)に合流して、それから王都に向かおう」


「よし、約束ね。絶対に!」


 エヴァはそう話し、満面の笑みを見せた。


 謝らなくては……。

 冷たくしてしまったこと……。

 謝らなくては……。


 僕はどこか素直になれない気持ちと闘いながら、拳を握る。

 喉の奥に何かが詰まったように、言葉を紡げなかった。


 こんな気持ちで、明日の王都の祭りを楽しめるはずがない。

 何より、誘ってくれて、嬉しそうに話すエヴァに申し訳がない。

 それでも、『ごめんね』のたった四文字は喉から出なかった。


「じゃあ、伝えたいことも伝えたし、私は帰るから! 明日、忘れないでね!」


 エヴァはそう話して、部屋から出ていってしまう。

 扉が閉まる音が響き、騒がしかった部屋は静寂に包まれた。


 明日……明日謝ろう。

 

 そのまま夜を迎えて、僕は眠る。

 明日の王都の祭りに備えるためだ。


 そして朝。

 

「ルイン! 早く起きなさい!」


 母親の声で僕は目を覚ます。

 ゆっくりと目を開け、ベッドから体を起こして窓から差し込む光に目を細めた。


 そして、階段を登る音を耳にする。

 ギシギシと音を立て、誰かが上がってくる。

 母親か、エヴァだろう。


 ゆっくりと扉が開き、青い髪が視界に入り、エヴァが顔を出した。


「おはよう、エヴァ」


「おはようじゃないよ! 今日は魔法科の実技試験じゃん!」


 エヴァはそう話した。

 その言葉に、僕は首を傾げる。


「実技試験は終わったじゃん。今日は王都の祭りでしょ?」


 僕がそう話すと、エヴァは眉を歪め、首を傾げた。


「え……王都の祭りは、七日後でしょ?」


 エヴァの言葉に、部屋が静まり返る。

 嘘を言っているような顔には見えない、ふざけているような声色でもない。

 だからこそ、混乱した。


 何を言っているのだと……。


「…………は?」


 僕が漏らしたその言葉は、部屋の静寂に包まれ、溶けて消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ