Episode:7 死の記録
隊ではなく軍。
ディジーは確かにそう言った。
僕はその言葉に、違和感を感じた。
それは、シェラ、ディジーの反応だ。
隊ではなく、軍。
連携をしている……。
雑魚。
それだけでも導き出せるほどの違和感。
「待ってください、不死隊は基本、どれくらいの群れを作るんですか?」
僕がそう話すと、右側に座っていたディジーとシェラが顔を合わせ、首を傾げる。
そして、日常を話すように軽く口を開いた。
「十体いりゃ、多い方だよな?」
「だね。戦士や魔術師なんかも出てくると、最低金等級くらいの依頼になるんじゃないかい?」
シェラの言葉に、ディジーは頷きながら答える。
そこで初めて、あの森の異常さに気がついた。
二十体の銀騎士ですら押し返せないスタッパーの数。
戦士、斥候、魔術師が入り乱れ、連携をとる姿を、隊ではなく軍と呼んだ事。
全てが繋がり、異常さを際立たせる。
「暴礫は、群れを作りますか?」
僕は、スタッパーより先に会ったボルグラについても問う。
拳ほどの大きさをした石が飛び交う中、シェラは適切な対応をしていたが、それと同時に焦っているようにも見えたのだ。
あれは、予想外の事態が発生したからじゃないかと、僕は考えた。
「いや、アイツらは群れにはならないだろ。多くて五体? くらいじゃねぇかなぁ」
うーん。と唸りながらシェラは腕を組む。
シェラの言葉に、僕は歯を食いしばった。
群れをなさない魔物が群れをなし、隊は軍に昇格する。
森に入る際に見かけた魔除けの魔具。
ディジーは強力なものだと言っていた。
森が異常なんだ。
あそこは初めから通っちゃいけない場所だった。
地図よりも遥かに大きく、予想外のことが頻発する。
あの森を通るのは避けた方がいい。
「ディジー、あなたの力を、知識を貸してくれませんか?」
僕は紫色の瞳を見つめ、そう言った。
「ルイン……だったかい? アンタの話が本当だとして、仮に、アタシが仲間になるとして、見返りはなんだい? アタシ達冒険者は、報酬がないと動かないよ」
ディジーはそう話した。
彼女の肩からシェラは顔を覗かせ、眉をクイっと上げる。
どんな意図があるかはわからなかった。
「報酬……ですか」
僕は俯いた。
当たり前だ、冒険者を雇うには金がいる。
報酬がいる。
手持ちはないし、手渡せるものもない。
「すぐに払えなくても大丈夫ですか? 将来的に払える……とか」
僕がそう話すと、ディジーは眉間に皺を寄せ、僕を睨む。
「いつ死ぬかわからない冒険者に、後払いかい?」
少し低くなった声で、ディジーは話す。
当たり前だ。
冒険者はいつ死ぬかわからない、明日かもしれないし、もっと先かもしれない。そんな彼女に、この言葉は禁句に思えた。
「すいま……」
「まぁ、否定から入るのはつまらないから、取り敢えず話してみなよ。後払いで、アンタが何を払えるのか、興味がある」
僕の謝罪をかき消し、ディジーはニヤリと笑いながら話す。
その笑みには、瞳には、探究心と呼べる炎が揺れている。
「そうですね……空が白くなる現象、未知の魔物とか。つまり、長年生きてる樹人、褐樹人、鍛人、蜥蜴人でさえ、知り得ない、片鱗すらも知らない知識と経験を、報酬として差し出せます」
僕がそう話すと、ディジーは目を見開き、ニヤリと笑った。
そして、その笑いは次第に歓喜に変わる。
「っく。くっく、あはは! いいねぇ、いいじゃないか! 誰も知らない知識か、保証は出来るのかい?」
ディジーは笑いながらそう話す。
その言葉に、僕はしっかりと答えた。
「はい、絶対に後悔はしないかと」
そう言い切った。
ひとしきり笑ったディジーは呼吸を整え、僕を見つめる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「いいねぇ、乗った」
ディジーは静かにそう言って、ニヤリと笑った。




