Episode:5 銀髪の褐樹人2
校舎から飛び出したシェラを追いかけ、僕は目的の人物を見つける。
「シェラ、止まって!」
僕の声にシェラは急停止するために足を地面に打ち付けるが、蜥蜴人の体躯から出る速度と力に、地面は耐えられずに砕け、抉った。
戦闘態勢を取るディジーは、切れ長の紫色の瞳と、濡れた銀色のまつ毛を瞬かせ、眉を歪めた。
警戒態勢を崩さないまま、ディジーは外套に手を入れている。
「アンタ達、誰だい?」
ディジーは外套に手を入れたまま、鋭い目つきで僕たちを睨む。
僕は息を切らしながら、シェラの前に出て、ディジーをしっかりと見つめた。
「僕はルイン、こちらはシェラ……あなたに用があるんです」
僕がそう話すと、ディジーはシェラを一瞥し、僕に視線を戻した。
「用って?」
ディジーはそう話した。
彼女は疑い深い。
初めて会った時、空が白くなる現象についてもかなり怪しんでいた。
僕が真実を話すかどうか、出された情報は信用するに値するかどうか。
「……この世界が、もし繰り返されてると言ったら……どうですか?」
僕はそう問いかける。
その言葉に、ディジーは首を傾げ、ため息を漏らした。
「狂言か」
直後、異質な魔力がディジーの全身から溢れ出る。
失敗……その二文字が脳内を駆け巡り、僕は歯を食いしばった。
「しくじったなぁ! ルイン!」
シェラはニヤリと笑い、背中に携えた二本の大曲剣を引き抜いた。
「どうする!?」
シェラは僕の前まで歩き、楽しそうに叫んだ。
ここで戦うのはまずい、傷ついた時点で今回は見送りになる!
ディジーも、シェラも、体に傷が出来たらこれ以上の冒険は不可能だ。
ディジーの外套が翻り、右手が露わになる。
中指には赤い宝石が輝く指輪が嵌められている。
魔具……。
戦闘が始まる直前、僕は歯を食いしばり息を吸った。
そして、口を開く。
「あなたは召喚魔術師だ! だから……だから!」
僕は記憶を辿り、彼女が扱う魔術を脳内に思い描く。
そして、全身に力を入れてゆっくりと唱えた。
「ヴェルーデ……」
僕がそう呟くと、視界がグラりと揺れる。
大規模な魔力消費で、体に不具合が発生した証拠だ。
前に倒れそうになる身体を、右足を一歩出して無理やり支える。
歯を食いしばり、拳に力を入れ、ディジーを睨んで、更に詠唱を継続する。
「――ヴェール・エルキス!」
直後、背後の空間が歪み、銀色の直剣が姿を現す。
まるで、先端から構築するように現れたそれは、刀身が半分ほど出たあたりで弾け飛び、顕現した刀身の半分のみが地面を打ち付け、高い音を出した。
「――っな!」
「ルイン!」
ディジーの驚愕の声と、崩れ落ちる僕を見たシェラの声が混ざる。
僕は校舎前の石畳の地面に手を付き、息を切らす。
鼻先に温かい感触が伝い、赤い雫が地面を打った。
「――っ。なんだこれ……なんだよこれ」
ディジーは、銀騎士を二十体以上召喚していた。
だが、僕には直剣一本さえも満足に顕現させることが出来なかったのだ。
胃から込み上げてくる熱いものを地面に吐き出し、僕は袖で口元を拭いながらディジーを睨む。
「大丈夫か、ルイン!」
シェラのそんな声も耳には入らず、僕はただ、ディジーを睨みながら口を開く。
「せめて……話だけでも聞いてください」
そう話すと、ディジーは驚いた顔をしながらも戦闘態勢を解き、ため息を漏らしながら銀髪を乱暴に左手で掻いた。




