Episode:4 銀髪の褐樹人
シェラは僕を見つめながら話す。
「今何回目だ?」
僕は小さく首を振った。
「具体的な回数は分かりません。まだ、十回は行っていないかと……」
僕は俯き、そう話しながら拳を握る。
なかなか前に進めない。
やっと動き出したのに、森を抜けることさえ叶わなかった。
「次はどうする?」
「ディジー……。を探します」
僕がディジーの名前を出すと、シェラは首を傾げた。
やっぱり、ディジーのことも知らないか。
予想通りではあったが、もしかしたらなんて考えていた自分が憎い。
期待して失望したら、気を落とすのは自分だけなのに。
「誰だ?」
シェラは首を傾げながら、そう言った。
「銀髪の褐樹人です。前回、一緒に動きました」
そう話すと、シェラは鼻を鳴らしながら腕を組み、廊下に溢れる人混みに目を向けた。
「銀髪の褐樹人なんざ、大量にいやがる。こんな中探すのはちと無理があんじゃねぇか?」
シェラはそう言いながら眉間に皺を寄せる。
確かに、そうだ。
正直、今回はディジーに会えないかも。
そんなことさえも考えてしまう。
「そう……ですね」
僕は俯き、策を考える。
そして、一つの光を見つけた。
それは、シェラと初めて会った記憶だった。
魔力が臭いと、そう言ってシェラは僕の前に姿を現した。
それも一回ではなく、再配置が行われても数回は魔力の匂いで僕の前に姿を現したのだ。
「シェラ」
僕は背の高い蜥蜴人の名前を呼びながら、顔を上げる。
名前を呼ばれたシェラは僕を見下ろし、片目の眉を上げた。
「なんだ?」
「魔力の匂いは嗅ぎ分けられますか」
シェラの問いに僕はそう答えた。
だが、彼は腕を組んだまま唸り、ため息を漏らした。
「この学校に、何人冒険者がいると思ってやがる。魔術が中心の世界だ、試験もあって、魔力の粒子が溢れまくってる。数人しかいないならともかく、特定の誰かを見つけるのはキチィな」
シェラはそう答え、窓の外を見つめる。
太陽の光が顔にあたり、少し丸かった瞳孔が細くなった。
「ディジーは異質です。召喚魔術師で、外套の中に大量の魔具を所持しています。魔具から漏れ出した魔力を、混ざりあった魔力を嗅ぎ分けるのは不可能ですか?」
僕の言葉に、シェラが視線だけをこちらに向け、ため息を漏らした。
「あんまり期待はすんなよ」
シェラはそう話して鼻先を天井に向ける。
そして、一息で空気を取り込んだ。
直後、シェラは眉間に皺を寄せ、顔を下す。
「どうですか?」
「いる、外套が魔力を隠す効力があるんだろうなぁ、めちゃくちゃ弱ぇが、気色の悪い匂いがあるぜ」
シェラはそう言って自身の鼻先を掻く。
よほど不快な香りなのだろう。
僕たち人間には感じることはできないが。
「案内、お願いできますか?」
「任せろ」
僕の言葉に、シェラはそう答えて歩き出す。
次第に脚は速くなり、階段を飛び、壁を蹴って階下に行く。
生徒が騒つく場に目も向けず、シェラは先に先にと前を行く。
僕は、彼を追うだけで息を切らしていた。
「ルイン! 校舎の外だ!」
低い声と、重い足音が校舎に響く。
僕はシェラの背中を追いかけ、そして、見つける。
校門から出る寸前、知っている後ろ姿。
銀髪の長髪に、全身を覆う漆黒の外套。
見つけた。
「ディジー!」
僕は彼女の名前を叫ぶ。
前を歩く彼女は振り向き、シェラと、僕を一瞥して、戦闘態勢を取り、外套を翻す。
そりゃそうだ。
名前を呼ばれ、振り返ると、黒い鱗を持つ蜥蜴人が迫ってきているのだ。
構えるに決まっている。
「シェラ、止まって!」
シェラを制止する僕の声が、快晴の空に響いた。




