Episode:3 蜥蜴人の逆鱗
校舎にはいり、初めてシェラと会った廊下に向かう。
老婆と話し込んでいたためか、出遅れ、すでに獣人と褐樹人の喧嘩が始まり、鎮静化のために、黒い鱗を生やした蜥蜴人が人混みを掻き分けていた。
「少し遅かったか!?」
人混みに入って行くシェラを見つめ、僕は歯を食いしばる。
ディジーと会ったのはシェラの前だ……。
この時点でディジーは校内にいないのか!?
周囲に目を凝らすが、銀髪の褐樹人など見当たらない。
遅かったか……。
ディジーを探していると、目の前に影が現れる。
僕が視線をそちらに向けると、シェラが僕を見下ろすように立っていた。
「あんちゃん、廊下の真ん中にいたら邪魔だぞ」
シェラはそう言いながら、僕の肩に手を乗せ、押し退ける。
シェラが僕の前を通る瞬間、僕は小さく呟いた。
「岩人形……」
「あぁ?」
僕の言葉に、シェラは足を止め、僕を睨む。
直後、大気が揺れ、生徒の叫び声が響いた。
「魔術が失敗したぞ!」
「岩人形だ! 先生呼んで!」
生徒の声が響くと、シェラはニタリと笑い、鼻をヒクつかせた。
「あっちの方が面白そうだぁ」
そう言って、シェラは僕から視線を外し、一歩踏み出した。
逃すわけには行かない。
そして、僕はあの日、シェラが一番取り乱した言葉……名前を呟く。
「――アーガス・ティルデ」
その名を口にした瞬間だった。
黒い何かが僕の視界を一瞬にして横切り、次の瞬間には僕の背中は壁に打ち付けられていた。
「――っは!」
肺から無理やり空気が出され、僕は宙に浮いたまま足で地面を探す。
視界に映ったのは、僕の首を強く締める黒く大きな腕と、振り上げられた大曲剣。
そして、限界まで見開かれた色彩豊かな眼球だった。
鋭く尖った瞳孔は徐々に開き、円形になる。
怒りを表しているようだった。
「おい、あんちゃん。その名前、どこのどいつから聞いた?」
ドスの聞いた低く重い声が廊下に響く、天井スレスレまで伸びた大曲剣の切っ先、異常な事態に、場は騒然としていた。
「返答次第じゃ、この場で首を落とすぞ」
シェラはそう話した。
僕は、シェラの腕を掴み、答える。
「空が……白くなる……現象を……見たことはあ……りますか」
僕がそう話すと、シェラの力が徐々に弱まり、僕は床に崩れ落ちる。
咳き込みながらも、霞む視界でシェラを見上げ、言葉を繋げた。
「僕はルイン、あなたはシェラ。アーガスはあなたの友人で、すでに死んでいる……。自殺だったはずだ。彼は再配置を経験している……今は、僕が再配置の中心にいるんです」
僕がそう話すと、シェラは僕の身体を掴み無理やり立たせた。
「あなたは黒曜銀級の冒険者……。でも、黒曜金級の等級章も持っているはずです」
僕の言葉に、シェラは深呼吸をして、僕を見つめた。
「悪かったな。えっと……ルイン? 今何回目だ?」
そう話したシェラの顔は、異常なまでに真剣で、しっかりと今を捉えていた。




