Episode:2 問答
人混みに目を凝らし、ある人物を待った。
エヴァは先に姿を消した。
いや、学校に行ったのだ。
ここから先は僕の問題、彼女を巻き込むわけにはいかなかった。
人混みの中に、見覚えのある人物が見えた。
僕は深呼吸をして、歩き出す。
接触をするためだ。
その人物は、人混みの中でも、誰にも接触せずに動いていた。
異常なまでの人の数、多種多様な種族が入り混じり、体格さえも千差万別のこの場所で、誰にも触れずに人混みを抜けるのは至難の業だ。
その人物が人混みを抜けた頃、僕は目の前に立ち口を開く。
「こんにちは。何回目ですかね」
僕が声をかけたのは、目を布で覆い、杖をついた老婆だった。
白い髪は胸まで下がり、姿勢すらも少し曲がっている。
だが、異様で異質な気配だけは、消せてはいなかった。
「ルイン……かい?」
「僕以外に誰がいると?」
僕がそう答えると、老婆の口元は不敵に笑った。
「申し訳ないねぇ……」
老婆は優しくそう呟いた。
その謝罪に、僕は歯を食いしばり、老婆を睨む。
「一度……死にました。何か知ってるなら教えてください」
僕のその言葉に、老婆の口が震える。
「そうかい……本当に申し訳ないことをした……」
老婆は申し訳なさそうに、声を振るわせながら謝罪を行う。
その姿に、僕は舌打ちをして、口を開く。
「東の果ての洞窟に、魔物がいると聞きました。知っていますか? 前回、再配置に巻き込まれた人物は、その魔物を追っていたようなんです」
僕の話に、老婆は首を傾げた。
「前回の人物は、たくさん犯罪を犯して、結局殺されたさね」
老婆は確かにそう話した。
その言葉に、僕は首を傾げる。
なんだ、何かがおかしい。
「待ってください。アーガスは、僕の前の人ですよね?」
僕がそう話すと、老婆は頷き、口を開く。
「あぁ、間違ってないよ。アーガスは……えっと、どのくらい前かの?」
老婆は額を掻きながらそう答えた。
そこで、僕は気づいた。
だが、それを信じたくない気持ちが交差し、僕は震える声で問いかけた。
「どのくらいって、期間の話ですか……? それとも、人数……?」
「もちろん、人数さね」
ドクンッ
その言葉を聞いた瞬間、心臓が強く脈打つ。
アーガスが最初じゃない、きっとその前にも、その後にもいたんだ……!
「なんで、再配置が起こるんですか!?」
僕は叫び、老婆に問いかける。
老婆は驚いたように体を跳ねさせたが、すぐに首を振った。
「まだ、言えないんじゃ」
「僕は一度死んだ! 知る権利があるはずです!」
その怒鳴り声に、周囲の人間が視線を向ける。
僕はそれに気づき、出かかった言葉を飲み込んで話した。
「なぜ、教えられないんですか」
「今教えてしまえば、ルイン……君の足を止めてしまう。未来を目指す君の足を、止めたくないのだよ。君の心を、折りたくないのだよ」
老婆はそう言って、俯いてしまう。
「それに……」
老婆は続けて口を開いた。
「私も、記憶保持の権利を、今は持ち合わせていないんだ」
そう話した老婆は、少し悲しそうで、悔しそうだった。
この人も、再配置を経験してる。
アーガスを知っていると言うことは、アーガスより前に再配置の中心にいた人間なんだ……。
「まだ、まだ話せないんじゃ。もう、いいかの」
そう言って、老婆は杖をつきながら僕の横を通り過ぎる。
僕は振り返り、老婆に声をかける。
「終わりは、どこなんですか!?」
人混みの中に老婆の姿は消えていた。
雑踏の中、老婆の声が響く
――残りは七日。頼む……私たちを……愚かな私たちを殺してくれないか。もう、夢は見飽きたんだ。
「何……言って……」
聞こえた声に、僕はそう呟く。
何もわからない。
何も得られない。
僕は拳を握り、ギリッと歯を鳴らした。




