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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第七章:死してもなお

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Episode:1 覚悟

 目が覚め、体を起こす。

 汗で服が体に張り付き、濡れた髪がベタつく。


 目を覚ましたのは、家だった。


「ルイン! 起きなさい!」


 母親の声が階下から響き、僕は唾液を飲み込んだ。


「右……右腕」


 僕は自身の右腕を触り、欠損していないことを確認する。

 ある、治っている。

 死んだから、再配置したんだ。


「……死んだ。初めて死んだ」


 死の事実がじんわりと身体に熱を与え、恐怖で筋肉が震える。

 でも良かった……。

 いや、良かったと言っていいのか……アーガスが自決を試み、何度も再配置を行ったことを、彼が書いた絵本から知っていたから、焦らずに済んだ。

 だが、痛みと恐怖は、しっかりと身体に刻まれた。


 シェラとディジーが簡単に殺された。

 四肢をもがれ、鱗が舞う光景が、脳裏に焼きついて離れない。


 不死隊(スタッパー)の脅威が眼前に広がっていたのだ。

 水魔術から、雷魔術の連携、事前に準備した道具すら、筋肉が麻痺したせいで満足に扱えなかった。


「っクソ……」


 森を切り抜けるのは無理だ。

 黒曜金級と、黒曜銀級。

 最高等級とそれに近い等級を持った冒険者が、あっさりと殺されたのだ。

 あの森は危険すぎる、昼間のうちに突き抜けられないなら、通るのは得策じゃない。


「どうする……」


 僕は小さく呟きながら、学校に行く準備をする。

 この世界では初めましてだ。

 シェラとディジーと合流して、また別の手段を考えなくてはいけない。


 東の果てにある洞窟は、あまりにも遠い。


 階下に降り、リビング横の廊下を通る。


「ルイン! 朝食は?」


「いらない、エヴァと一緒に学校に行く。遅刻するとエヴァがうるさいから、もう出る」


 僕はそう答え、玄関で靴を履く。

 扉を開けると、エヴァがすでに待っていた。


「遅いよ!」


「わかってる」


 エヴァの言葉にそれだけ返し、僕は足早に歩き始める。

 学校……。

 そうだ、先に老婆……。

 シェラに会って、ディジー……。初めにディジーとあったのはいつだ……?


 頭の中でいくつもの情報が絡み合い、処理に刻を要する。

 頭を叩きながら、歯を食いしばり、情報を整理した。


「エヴァ、学校には先行っていてほしい。僕は、ちょっとやることがあるから」


 僕がそう話すと、エヴァは首を傾げ、眉を歪める。


「やること?」


「うん」


 エヴァの問いに、僕はゆっくりと頷く。

 その僕を見て、彼女はふーんと、つまらなそうに呟いた。


「そっか」


「何も言わないの?」


 あっさりとした返事を不思議に思い、僕はエヴァに問う。

 すると、彼女は悲しそうな、諦めたように引き攣った笑いを浮かべながら、口を開いた。


「見ればわかるよ、大事なこと。私がなんか言っても、変わらないでしょ?」


 エヴァはそう話した。


「ごめん」


 僕は、気がついたら謝っていた。

 故意ではないとはいえ、エヴァにそんな顔をさせてしまったことが、悔しかった。


 それから少し、王都にはいり、人混みを眼にする。


「エヴァ、ここでお別れだ」


 僕は立ち止まり、そう話す。

 こちらに視線を向けたエヴァは、優しく笑い、息を吐いた。


「頑張ってね」


「頑張るよ」


 エヴァの小さな激励に、僕は短く答えた。

 彼女の背中が人混みに消え、青い髪さえも見えなくなる頃、僕は目を閉じて深呼吸をする。


 初めは老婆だ。

 それからシェラに会い、ディジーと話をしなくちゃいけない。

 シェラには前回のことを伝えなくてはいけない、森に入ったこと、スタッパーに足止めされ、全滅したこと。

 再配置のことを知識として持っているのは、老婆とシェラだけだ。

 今は、彼を頼るしかない。


 長く息を吐き、ゆっくりと目を開ける。


「よし」


 僕はそう呟いて、老婆が来るであろう人混みを睨んだ。

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