Episode:9 不死の軍2
森の中をシェラに抱えられたまま駆け抜ける。
「追ってきてるか!?」
シェラの叫びに僕は振り向き、背後を見る。
木の影、足元、どこにも不死隊の姿は見えない。
「大丈夫です!」
僕はそう答えた。
だが……。
「上!」
ディジーの声と共に、頭上から何かが降ってくる。
刻の流れが遅くなり、正体をしっかりと捉えた。
短刀を握り、頭巾のついた軽装に身を包むスタッパー……。
間一髪でシェラは身を逸らし、走り続ける。
「っぶねぇ!」
シェラは少し楽しそうに叫んだ。
「なんですか、あれは!?」
「あぁ!? スタッパーの斥候だろ?」
僕の言葉に、シェラはそう答えた。
まるで、当たり前のように。
「魔物が、斥候とかもするんですか!?」
僕がそう叫ぶと、シェラは舌打ちをする。
直後、ディジーが口を開いた。
「腐っても魔物さね、生存競争を生き抜くための知恵は身につけてるはずさ」
ディジーはそう話す。
が、走るたびに髪も胸も揺れ、宙を舞う髪で表情が見えない。
今どんな表情をして話しているのだろう。
直後のことだった。
「――っ!」
シェラが唸り声を上げながら上体を逸らし、そのまま転倒する。
投げ出された僕たちは地面を転がった。
シェラは爪を地面に突き立て、速度を殺す。
ディジーは地面を叩き、上体を起こして立ち上がった。
僕は、木に背中を強打するまで勢いを殺すことは出来ず、肺から空気が吐き出された。
「なに!?」
ディジーが叫んだ。
その声に、僕は顔を上げ、霞む視界で情報を取り入れる。
そのためだけに、頭の大部分を使っていた。
シェラが転倒したのはなんでだ?
あぁ、上体を逸らしたから。
なんで逸らした?
僕は視線を巡らせ、一つの答えを見つけた。
それは、木に食い込んだ両手剣を引き抜こうとするスタッパーの姿だった。
唸り声を上げながら、何度も両手剣を動かす。
バリバリと乾いた音が響き、次第に剣が抜けていく。
ガチャン
両手剣が地面に落ち、土を軽く巻き上げた。
全身を鎧で覆ったスタッパーは、兜の隙間から赤い目を覗かせ、僕たちを睨む。
「――っ! 戦士もいんのかよ」
シェラは舌打ちをしながら大曲剣を二本、背中から抜き、切っ先を地面につける。
ディジーも腰を落とし、指鎧を纏った右手をスタッパーに翳した。
――奇輝の指鎧……。
それは効力を発揮する前に、困惑の声へと変わった。
「……ディジー?」
僕はゆっくりと立ち上がりながら、ディジーに顔を向ける。
僕が見たディジーの顔は、いつもの凛々しく、鋭い顔じゃなく、困惑と絶望に満ちた顔だった。
ガチャン
ザッ……ザッ……
パキッ
鎧が擦れる音が響き、土を蹴る音が鳴る。
乾いた枝を踏み、姿を現したのは、多種多様な戦闘形態をしたスタッパーの軍。
外套を纏い、杖を持つ個体。
全身を鎧で包み、剣を持つ個体。
弓を構え、木の上からこちらを見据える個体。
闇。
全体の数は不明、知恵があるなら、戦術もあるのだろうか……。
「戦士に、斥候、魔術師か……マジで、おめぇらは嫌いだ」
シェラのその呟きは、森の闇に吸い込まれた。




