Episode:6 戦者3
ディジーが召喚した銀色の騎士は、木々の間を走り抜けて暴礫の首を一つ刎ねる。
ボルグラの群れはそれを見て、小さく後ずさった。
身長は成人した人間ほど。女体に近い骨格を持つ魔物だ。
身体は樹木で形成され、顔には裂けたように三つの穴が空いている。
彼女らの表情が変わるたび、裂け目の形状は滑らかに動いた。
一度は静まり返った森。
だが、ボルグラの一体が叫ぶと、それに応えるように甲高い声が森全体に響いた。
肩や腕、背中から生えた小さな枝が伸び、次第に手のような形状に変化する。
そして、地面に転がっている石を拾い上げ、銀騎士に投石した。
群れの総数は不明。
視界には、夥しい数の枝がうねっていた。
ギィィィン!
ボルグラからの投石を、銀騎士は剣で弾き、すぐに木の影に身を隠す。
召喚魔術。
召喚とは現世に呼び出した者を従える能力だと思っていたが、どう見ても銀騎士は自己判断で最適解を導き出しているように見える。
本来の召喚魔術がそうなのか、ディジーの力量、黒曜金級の冒険者の力なのかは、僕にはわからなかった。
その光景を食い入るように見つめる僕に、シェラは声をかける。
「戦うぞ、あれだけの群れだ。ディジーだけじゃ厳しいだろう、俺様たちも加勢する。それに、ルイン……オメェも実戦を経験して、成長する機会だ」
シェラはそう話し、僕を離す。
そして、彼はもう一本の大曲剣を背中から抜き、僕に視線を移した。
「一振りはここに刺したままにしといてやる、壁として使え、わかったな?」
シェラは僕を見つめながらそう話した。
「わかりました」
僕がすぐに答えると、シェラはボルグラの群れに視線を向けた。
「じゃあ……」
そう言ってシェラは右手に持つ大曲剣を肩に乗せ、腰を低く落とした。
「行くぜ!」
次の瞬間、シェラの声と共に低い音が響き、土が巻き上がる。
重量感のある足音にボルグラが気づき、数体がシェラに視線を向け、投石の構えをとる。
うなり、しなる枝は、遠心力を生み、馬車より速い速度で標的を穿つ。
当たれば、黒曜の冒険者とは言え致命傷になりかねないはずだ。
「ルイン!」
シェラの声が響き、僕は体を動かす。
彼が立てた大曲剣から身体を出し、右手をボルグラに向け、想像し、小さく呟く。
想像しろ。
蛇口を捻りすぎるな、出力を間違えれば、シェラごと穿つことになる。
上手くやれ……僕なら出来るだろ……!
「――ディア・フィルト!」
詠唱終了と共に、右手のひらに形成された火球がボルグラを目掛け放たれる。
狙いも悪くない、大きさだって悪くない……。
僕の放った魔術は、シェラの走りよりも早く、ボルグラに直撃し、連鎖的に焼いた。
「――樹木の体はよく燃えるなぁ!」
炎の魔術で燃えるボルグラを睨みながら、シェラはニヤリと笑う。
そして、勢いを殺さないまま、大曲剣を横薙ぎに振るった。
燃える身体に苦痛の声をあげ、目の前で両断される仲間に対しての悲痛の叫びを発する。
それは森全体に響き、鳥をも逃げ出すほどだった。
魔物にも、仲間を大切に思う気持ちがあるのか……?
僕はその光景を見つめ、右手をゆっくりと下ろす。
直後だ。
「戦うんだ、ルイン!」
ディジーの声が左から響いた。
彼女は僕を睨み、眉を顰めている。
「魔物に情なんかない! 人間を襲う過程で得た知識を応用しているだけにすぎないんだ! 何かを守りたいなら、騙されるな!」
僕はその声にボルグラの群れに目を向ける。
真ん中では銀騎士が応戦し、外から隙をつくようにシェラが叩き斬る。
これが戦闘……これが冒険。
そして彼らが……。
――冒険者!
「ルイン、貫通!」
ディジーの声に、僕は右手を前に向ける。
火球だけじゃ威力が弱く、表面しか倒せない。
炎が消えれば致命傷にすらならない。
役に立て……!
想像、貫く……想像!
炎は変幻自在の武器。
小さな隙間から体内に入り、そのまま貫き通す形を作る!
「――ディア・リカール!」
直後、細く鋭い炎の礫が、右手から発射され、ボルグラの身体に穴を開ける。
「ルイン! オメェ、魔術の才能あるぜ!」
シェラが僕を横目で見て、叫んだ。
「ありがとうございます!」
僕はその言葉に大きく答え、魔力を練る。
ゆっくりと深呼吸をして、ボルグラの群れを睨んだ。
これが初めての冒険だ。




