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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第六章:見たことない景色

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Episode:2 大好きな人

 僕は、ある家の前で足を止めた。

 周辺の家と変わらない見た目。

 木造の綺麗な見た目をした家は、夜の闇の中でも一際目立っているような気がした。


 まだ朝方。

 それもかなり早い時間帯だ。

 迷惑なのはわかっている。

 だが、今言わなくてはいけない。


 僕は玄関の扉に近づき、コンッと数回叩く。

 中から返事はない、まだ寝ているのだろう。


 迷惑を知って押しかけるのは気が引けるが、やらなくてはいけない。

 そう思い、さらに扉を叩いた。


 十数回叩いたあと、エヴァによく似た女性が顔を出した。


「……夜中にうるさいわね……。誰?」


 目をこすりながら扉を開けたのは、青い髪を腰まで伸ばした女性だった。

 まつ毛は長く、細身。

 かなり、似ている。


「朝方にすいません。ルインです……エヴァちゃ……さんはいますか?」


 エヴァの母親らしき女性は、細く鋭い目つきで僕を睨み、知っている人物だと気づくと、ため息を漏らして家の中に消えた。


 あのため息は、迷惑だけど言わないでおこう。そんな気持ちがこもったため息だ。

 子供の僕でもわかる。やはり、迷惑だったか。


 僕は玄関の前でため息を漏らし、肩を落とす。


 少し経ってから再度扉が開き、よく知る人物、エヴァが姿を現した。


「……ルイン? お母さんが、文句言ってたよー」


 寝ぼけているのか、フワフワと柔らかい口調でエヴァは話す。

 文句……。その言葉を聞いて少し落ち込んだが、空が明るくなっていない刻だ、そんな言葉が返ってくるのは、想定していた。


「おばさんにごめんなさいって伝えといて」


「わかったぁー。で? こんな刻にどうしたの?」


 そう言いながら、エヴァは前髪を直し、服を叩く。


「大したことじゃないんだけど、伝えとこうと思って」


 僕のその言葉に、エヴァは首を傾げた。


「今日の昼から、すこし遠くに行くことになったんだ。学校も行かない。お母さんには、もう許可はもらったから……。それだけ」


 そう話すと、エヴァは目を見開く。

 眠気が覚めたのか、僕との距離を詰め、下から見上げた。


「いつ帰るの? 王都の祭りには帰る?」


「……うん、そのつもり。祭りには間に合うようにしたい」


 したい……。

 これはただの願望だ、そして、それは叶わない。

 アーガスが九十日を要した、情報を持っているからと、残り数日でどうこうできる問題ではない。


 だが、足を止めないようにと、願掛けにも似た小さな抵抗だった。


「そっか」


 エヴァは満面の笑みを見せる。

 月明かりに照らされた長いまつ毛が輝き、濡れた瞳が僕を見つめる。


 その時、実感した……。

 僕は、やっぱりエヴァが好きだと。


 だからこそ、止まれない事も、痛いほどわかった。

 今は果たされない約束を、いつか果たすため、何度も世界を繰り返す。


「じゃあ……行ってきます」


 僕がそう話すと、エヴァはしっかりと頷く。

 そして、誰もが振り返るほどの整った顔立ちで話した。


「行ってらっしゃい!」


 僕はその声を聞き、踵を返す。

 

 東の果ての洞窟。

 アーガスの話では、そいつが元凶だ。

 再配置を行う魔物……絶対に、僕が……。

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