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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第六章:見たことない景色

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Episode:1 側にいる人

 翌日の深夜の事だ。

 刻は五刻(ごこく)

 まだ空は暗く、木造の自宅前に広がる草原は先が見えない。


 僕は図書館からまっすぐ帰り、少し休んでから母親に話をすることにした。

 目を覚まし、階段を降りる。

 すでにリビングからは光が漏れ、母親は本を読んでいた。


「おはよう、母さん」


 僕がそう話すと、母親は赤い髪を揺らしながらこちらに視線を移した。


「あら、帰ってたの? エヴァちゃんから聞いたよ、図書館に篭ってたんだって? 試験サボって、お勉強ね……。いつからそんな勉強熱心になったのかしらね」


 母親はそう言って、僕を見つめた。

 本を閉じ、体をこちらに向ける。


「ごめん……すごく大事なことがあって、それの調べ物」


「そっか」


 僕の言葉に、母親はそれしか返さなかった。

 何かを察したのか、他に言葉が思い浮かばなかったのかはわからない。

 だが、それだけだった。


 僕は深呼吸をして、母親を見つめる。

 覚悟の決まった目は、周りから見たら睨んでいるようだったかも知れない。


「少しの間、帰ってこれない。学校も行けない」


 僕がそう話すと、母親は眉を歪めた後にため息を漏らす。


「理由は?」


 母親はそう答えた。

 言って、通じるだろうか。

 本当に?

 言って、通じたとして、わかったと答えが返ってくるのだろうか。


 僕は魚のように口をパクパクと動かし、紡ぐ言葉を考える。

 口に出そうとしてはやめ、飲み込んだ。


 母親はそんな僕を見て、再度ため息を漏らし、優しい眼差しを僕に向けた。


「言えない?」


「……ごめん」


 僕は俯き、静かに答える。

 これが今できる、精一杯の返答だった。


「いつ頃帰るの?」


 母親の言葉に僕は目線を上げる。

 七日……いや、あと四日か。

 そう言っても事実ではあるが、それは真に戻ったとは言えない。

 再配置が発生すれば、また仕切り直しだ。


 僕は考え、拳に力を入れる。

 そして、しっかりと答えた。


()()()()()


 その言葉に、母親は泣きそうな顔をしたあと、俯き、ため息を漏らした。


「そう……それくらい大事なのね?」


 母親は僕を見ないまま、そう話した。


「うん」


「帰ってくる?」


 母親は、俯いたまま話した。

 力のない声、不安と孤独を纏った、弱々しい話し方。

 この時だけは、母親が小さく見えた。


「必ず」


 僕がそう答えると、母親は素早く顔を上げ、僕を睨む。


「絶対帰ってきて」


「約束する」


 母親の言葉に、僕はすぐに返した。

 何迷わず、咄嗟に出た言葉だった。

 反射的に……。それが最善だと、心からそう感じたんだ。


 母親は鼻を啜りながら、深呼吸をして僕を見つめる。

 そしてたった一言、笑って言って見せた。


「行ってらっしゃい」


 僕はその言葉に視界が霞む。

 目頭が熱くなるのを感じ、溢れ出しそうになる涙を歯を食いしばって抑え込む。


 そして、震える声でたった一言。

 僕も答えた。


「行ってきます」


 そう話して、僕はリビングから出る。

 少し早いが、エヴァにもお別れを言わなくちゃいけない。


 玄関で靴を履き、つま先を床に叩きつける。

 しっかりと靴に足がおさまったのを確認して、玄関の扉に手をかけた。


 直後、背中に温かな感触が滲む。

 手の形……。大人にしては、意外と小さな手の感触だった。


「どうか……無事で……」


 母親の震える声が背後で響く。

 僕は歯を食いしばり、振り返らずに扉を開け、一歩踏み出した。


 振り返りたい。

 だが、それは許されない。

 今振り返ってしまえば、きっと立ち止まってしまう。

 だから、次に笑って話すのは……全部が終わったあとだ。


 僕は歩き出す。

 母親と同じくらい大好きで、大切な人の家へ。

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