Episode:10 旅の始まり
――ルイン
背もたれに体重を預け、僕はシェラに視線を移す。
「アーガス・ティルデ……知っていますね?」
僕の言葉に、シェラはゆっくり頷いた。
「彼が最初ですか?」
僕の言葉に、シェラは首を振る。
「わからない」
僕は立ったままのシェラを見上げ、ディジーに視線を移した。
「僕が初めてじゃない。老婆の話は出ました……なら、あの人が答えを教えてくれれば、簡単な話なんです」
「言えない理由があるんじゃないのかい?」
僕の言葉に、ディジーがそう答えた。
本当にそうだろうか……。
「シェラ、アーガスさんと会ったのは、いつですか?」
「最後は……多分三年くらい前かもしれねぇ。まだ、俺様は冒険者になりたての時だからな」
シェラはそう話し、ため息を漏らした。
ディジーも、そんなシェラを見て腕を組む。
「で、どうするの? あと五日間で東の洞窟に行くわけ? できると思ってるのかい?」
ディジーはそう話し、僕を睨む。
「距離はわかりますか?」
「遠すぎはしないだろうけど、資金の問題や、食糧、宿なんかも計算に含めると、ギリギリかもね」
ディジーはそう答えながら眉間を掻いて、ため息を漏らした。
場には静寂が流れる。
辿り着けるかわからない、たどり着けたとしても、魔物の討伐を可能と出来るだけの刻が残っているか……。
「……ギリギリ?」
僕はそう呟き、ディジーの顔を見る。
彼女は眉を歪め、首を傾げた。
「何よ」
「なぜ、アーガスは辿り着けたんでしょうか? 転移魔術のような描写はありませんでした」
僕がそう話すと、シェラが本を奪い、読み始めた。
「……七日以上あったのかも知れない」
その言葉に、再度静寂が訪れた。
だとしたらかなりまずい。
黒曜金級のアーガスがかなりの刻を使って魔物に辿り着いても、勝てなかったんだ。
僕たちだけでどうこうできる存在なのか?
「具体的な日付はわかりますか、日数で構いません」
僕の言葉に、シェラは考える。
爪の長い指が顎を突つき、顔を顰めた。
「どこから計算すればいい?」
「初めて会った日から、自殺をした日まで」
僕の言葉に、シェラは唸る。
必死に記憶を辿り、答えを探しているようだ。
そして、思い出したのか、目を見開いた後に、肩を落とした。
「……いや」
「なんですか、教えてください」
シェラは僕を見つめ、ディジーに視線を移した後、ゆっくりと口を開いた。
「九十日以上は、経ってるはずだ」
「てことは……最低九十日……」
僕はため息を漏らす。
ディジーは小さく舌打ちをして、シェラもため息を漏らした。
あまりにも条件が違いすぎる。
なぜ僕は七日なのか。
分かるはずのない問いを、僕はただ考えていた。
「取り敢えず、動きましょう」
「動くって、どこに……」
僕の言葉に、シェラが答えた。
不安そうな顔をするシェラを横目に、僕は椅子から立つ。
「東の果ての洞窟です。辿り着けなくとも、そこに行くまでの情報は手に入れる必要があります」
僕がそう話すと、ディジーも立ち上がる。
「それもそうだね。もう本はいらないだろ? アタシがあの娘達に言っとくよ」
そう言って、ディジーは受付嬢のもとに歩き出した。
「シェラ、行きましょう」
「だが……あと五日だろ」
「旧友のためにも、動きましょう」
僕の言葉に、シェラの目が輝く。
そして、覚悟を決めたように鋭くなった。
「あぁ、わかった」
シェラは低く、そう答える。
僕は頷いた。
「一回、幼馴染と母親には話します。今日の昼間、王都の門で合流しましょう」
「なら、俺様達は、買い出しに行く。薬、食糧、野営の準備とかもしなくちゃいけねぇ……」
僕はそう話すシェラを見つめ、目を見開く。
もう一人ではないのだと。
「お願いします。では、また後で」
一緒に図書館を出て、それぞれの方角へ歩く。
答えを探すため、旅に出るのだ……。
再配置まで、あと五日。




