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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第五章:情報

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Episode:8 最小にして最大の情報

 ――ルイン


 僕は、シェラの話を聞いて、本に目を落とす。


「ありがとうございます。話してくれて」


 無意識のうちにそう呟いていた。

 シェラはため息を漏らし、立ち上がる。


「……シェラ?」


「ちょっと、気分転換に絵本でも読むわ」


 そう言って、シェラは受付嬢の元に歩いて行った。

 先程まで舟を漕いでいたディジーは、すでに眠りに落ちている。

 僕は、それを見て優しく笑い、新たな本を手に取った。


 黒曜金級のディジー、黒曜銀級のシェラ……。

 二人がいても、情報屋がいても、いまだに再配置についての情報は一つもない。

 

 本に触れた指先は、動かなかった。

 疲れたか……。

 違う、前に進む気力はある。ならなぜ……。


 僕は思考を巡らせ、ただ本を見つめていると、軽く頭を叩かれた。

 視線をあげ、正体を確かめると、かなりの量の絵本を持ったシェラだった。


「焦ると視野が狭くなる。ルインも読むか? ただの気分転換だ、落ち着いたら情報集めでもなんでもすりゃぁいい」


 そう言って、シェラは僕の前に一冊置き、後は自身の前に置いた。

 シェラはドカッと乱暴に椅子に座り、机の上に脚を乗せ絵本を開く。

 時より小さな笑みを漏らしながら、シェラは読み進めていた。


 そんな彼を見て、僕も渡された絵本を手に取り開く、子供向けに書かれた簡単な文字と、絵がついた幼稚な本。

 それでも、疲れた今の心には、ひどく染み込んだ。


 迫り来る眠気と闘いながら、いつの間にか意識を手放し、目が覚めれば本を手に取る。

 それを繰り返して、二日後、事態が動きだした。


 日付が変わる前。

 刻としては、新たな本が持ち込まれる。その瞬間だった。


 いつものように、僕とディジーは本に目を通す。

 魔術、魔物、色んな本に目を通して、情報を探していた。


 シェラは、あれから絵本にハマったのか、休憩と称して絵本を読むようになっていた。

 気の短いシェラなりの、紛らわせ方なのだろう。


 新たな絵本が入った、だから取ってくると、そう言ってシェラが席を立ち、受付嬢と話すこと数秒。

 突然、シェラの怒声が図書館内に鳴り響いた。


「なんでこれがここにあるんだ!?」


 シェラの声が聞こえた瞬間、僕とディジーは受付嬢とシェラが話す帳台の方に視線を向け、お互いに視線を移した。


「どうしたんでしょう?」


「さぁ?」


 僕の言葉に、ディジーは首を振る。

 皆目見当もつかない。


「なんか言ったらどうだ!」


 シェラがそう叫び、受付嬢に迫る。

 僕とディジーは席を立ち上がり、駆け寄ってシェラを押さえた。


「シェラ、何があったんですか!」


 受付嬢の服を掴むシェラに、僕は声をかけた。

 この数十日……彼にとっては二日程度だが、ここまで取り乱したのを見たのは初めてだ。


「シェラ、落ち着くんだ、何があったか知らないけど、一度落ち着いてから話したらどうだい!?」


 ディジーの言葉に、シェラは深呼吸をして、手を離す。


「何があったんですか」


 僕は、シェラに声をかける。

 その直後、ゆっくりとした動きで、シェラは帳台の上にある一冊の絵本を指差した。

 

 表紙には剣を持った勇者、その勇者の前には触手の生えた大きな魔物が一体。

 題名は()()()()()()

 ありきたりで、どこにでもある絵本だ。


「これが、なんですか? 普通の絵本です」


「作者の名前だ」


 シェラに言われ、表紙に書かれている名前に目を落とす。


 ()()()()()()()()()

 ただの、普通の名前だ。


「これが何か?」


 僕がそう話すと、シェラは僕を睨み、歯を食いしばる。

 そして、息を吐き、話し始めた。


「そいつは……もう死んでる。自殺だった……自分が持っている剣で、首を斬ったんだ」


 シェラはそう答えた。

 だが、作者の死因について詳しすぎる。

 その上、取り乱しすぎだ。


 そんな考えを他所に、シェラは言葉を紡ぐ。


「友人でも、親友でもねぇ……。俺にとっての呪いだ……。そいつはおそらく……ルイン、おめぇより先に、再配置に巻き込まれてる」


 シェラがその話をした瞬間、場の空気が凍った。

 僕は本を手に取り、雑にめくり出す。


 老婆、真っ黒の空が白く染まっていく……。

 魔物はなんだ……。

 本を閉じ、題名を見る。

 ()()()()()()


 これは、再配置を経験した、アーガスが描いた絵本か……。


「こ、これ、読んでいいですか!?」


 僕がそう話すと、受付嬢がコクコクと激しく首を縦に振る。


「シェラ、今はこっちです!」


 僕がそう話すと、シェラは頭を掻いて、受付嬢に頭を下げた。

 踵を返し、僕の元に来る。


 僕は椅子に座って、本を開いた。

 初めの文字に、目を走らせる……。



 これは、一人の勇者の話だ。

 いや、勇者にはなれなかった、一人のお話だ。

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