Episode:7 どこにもない情報
僕は本をめくる。
読み終わっては、一冊取り、ため息を漏らしながらも目を動かす。
一千冊を超えている。
そのはずだ、精神が擦り切れ、先の見えない結果に焦りを覚える。
ディジーは銀髪を揺らしながらウトウトと舟を漕いでいる。
休みなしの情報収集。
ここまで来ると、諦めてしまえと声が聞こえる。
僕は舌打ちをして、深いため息を漏らした。
「シェラ、情報屋からは何も引き出せなかったんですよね?」
「あぁ? あぁ、何も出てきやしなかったな」
そう尋ねる僕に、シェラは答えた。
「一応、詳細を聞いてもいいですか? 情報屋の名前が出たのも、こうして何人かで情報を集めるのはこれが初めてなんです。些細なものでも、手掛かりになるかもしれません。本を漁るのは疲れました……。休憩がてら、聞かせてください」
僕の言葉に、シェラはこちらに視線を移す。
「役に立つかはわからないぞ?」
「言ったでしょう……休憩がてらです」
僕がそう話すと、色彩豊かな瞳が、ディジーを見つめる。
本を持ったまま目を閉じるディジーを見つめ、シェラは優しく笑って、僕に視線を移した。
「そうだな……じゃあ」
そう言って、シェラは口を開いた。
――シェラ
俺は扉を開け、屋上に出る。
太陽の光に目を細め、視界が晴れた時、知っている人物が既に立っていた。
「ディジー……」
俺の視界に始めに飛び込んできたのは、褐色の肌に銀色の長髪が映える褐樹人だった。
「何してんだ、こんなとこで」
俺の質問に、ディジーは腕を組み、ため息を漏らした。
「アンタも、情報屋の話を聞きにきたんだろ?」
ディジーはまるで何でも知っているかのように話した。
自信たっぷりな表情が、余計に頭にくる。
十数人いる情報屋。
多種多様な種族、情報屋同士でも情報を交換して効率を上げるのだろうか。
ディジーの目の前にいるのは、軽装で革鎧に繋がる頭巾を被った獣人だった。
腰あたりから出る金色の毛並みをした尻尾は、左右に緩やかに揺れ、余裕を表しているように見える。
「俺様は別の奴に聞く」
俺はディジーに負けた気になり、他の情報屋から聞き出そうと一歩踏み出した。
直後、ディジーが口を開いた。
「もう聞いた。全員だ。アタシの前にいるのが最後さね」
ディジーはそう言った。
背中から刺さるその言葉に、俺は歯を食いしばり、拳を握る。
クッソ……。
振り返り、ディジーの横に並ぶ。
そして、自身よりはるかに小さい獣人を見下ろした。
「旦那、そんな怖い顔しないでくださいよぉ。ウチらは、仲間じゃないですか」
「あぁ、仲間だな。おめぇが持つ情報次第だ」
俺の言葉に、ディジーが横でため息を漏らす。
「シェラ、情報が集まらなくて腹が立つのはわかるけど、そんな言い方するもんじゃないよ。何をそんなに焦っているんだい」
ディジーが俺にそう話した。
俺は舌打ちをして、ルインを思い出す。
今が大事なんだ。
全員にとって、何回でもある挑戦だ。
繰り返し、繰り返し、何回でも踏み出せる。
だが……。
直後、頭の中にこびり付いた記憶が再生され、反響する。
『助けてくれ……! 頼む……頼む……』
もう、数年経っているのに、鮮明に再生される記憶に俺は頭を叩き、上がる心拍を抑えようとする。
助けるんだ、次は……。
深呼吸をして、心拍を下げる。
あの日も、こんな快晴だったな。
焦るな、焦れば見落とす。
視野を広げろ、今は情報だ。
「すまん、情報が欲しい」
俺は獣人を見つめ、そう話す。
彼はニヤリと笑って、手を擦った。
「どんな情報ですかな?」
「空が白く染まる現象について」
その言葉に、獣人は首を傾げた。
「……えっと、作り話とかって事ですかい?」
獣人がそう話すと、ディジーがため息を漏らし、俺を見つめた。
俺もディジーを見つめ、首を振る。
誰も知らない。
十数人の情報屋に聞いても得られないもの。
こんなものが存在するのか……。
焦りと、無力感で視界が赤く染まる。
そんな時、胸に温かな感覚が広がる。
ディジーが俺の胸に手を置き、首を振った。
「ありがとうね、アタシ達は失礼するよ」
ディジーに促され、俺は屋上の扉に足を向ける。
扉を開けるための取っ手を捻り、引く。
バタンッと音を立てて閉まった鉄製の扉は、力を込めすぎたためか取っ手が潰れ、背後が慌ただしくなる。
そんな俺を見たディジーのため息が、背中から聞こえた。




