Episode:6 一行
――ルイン
本をめくり、背もたれに体重を預ける。
どうも、うまく行かない。
行かない……とは違う。
情報が集まらない。
魔術も読んだ、魔物図鑑、派生魔術の書物も漁った。
だが、どうもダメだった。
漏れそうになるため息を飲み込み、頭を抱える。
無意識に手に力が入り、頭皮に痛みが走った。
「はぁ……」
漏らしてしまった。
変わらない現状、先の見えない状況。
変えたいと思って前に進むたび、焦りで大切なものを見落としている気さえしてしまう。
「どうするか」
現在の刻は不明。
それだけ書物に熱中していたのだ。
もっとも、その熱中は自己的なものではないが……。
直後、扉が開いた。
僕がそちらに視線を向けると、見慣れた二人が立っている。
黒い鱗を生やした蜥蜴人と、褐色の肌に銀髪の褐樹人だ。
二人は僕を見つけると、こちらに歩いてきた。
蜥蜴人はため息を漏らし、褐樹人は頭を掻く。
「どうでしたか? シェラ、ディジーさん」
僕の声に、二人は同時に首を振った。
「悪い、何もねぇわ。情報屋も当たってみたが、収穫は無し。空が白く染まる現象は、黒曜区分の冒険者でも知らねぇみたいだ」
シェラはそう話した。
眉間を鋭い爪で掻きながら、ため息を漏らす。
「ディジーで構わないよ。アタシの方もダメだね、シェラと同じで、情報屋や冒険者にも聞き込みをしたけど、有力な情報は無し、魔術が、魔物か、そこら辺がわかるだけでもかなり違うんだけどねぇ」
ディジーはそう話しながら、腕を組み、少し考え込む。
「他には、心当たりのある書物はないのかい?」
ディジーは、そう話しながら本棚が並ぶ図書館内を一瞥する。
「ありません。この数十日で、魔術、魔物の書物はかなり漁りました。派生も合わせて一千冊は超えてます。それでも、何も情報が得られないんです」
「まだ、入荷していないとかは?」
僕の言葉に、シェラがそう返した。
その言葉に、僕はシェラに視線を送り、口を開く。
「二日後、新たな本が入荷します」
「なら……」
「絵本です」
シェラが何かを話す前に、遮るようにして僕は話し始める。
絵本、童話、確実に現状には関係がない。
「絵本……」
ディジーが顎に指を当てながら少し考える。
「魔術や魔物のことが絵本に書いてたりしない?」
「あり得ません。繰り返すと言っても、無駄にしていいわけじゃない、一縷の望みにかけるとしても……正気じゃない」
僕がそう話すと、ディジーは小さく、確かに……と呟いた。
「なら、まだ本を見つめるつもりか?」
シェラは積まれた本を爪でなぞりながら僕を見つめた。
効率悪い……とでも言いたそうだ。
だが、情報がない今は、これしか手法がないのも事実だった。
「取り敢えず、今はそれしかありません。前に進む道も、情報がなければ見えませんから」
僕がそう話すと、ディジーが頷いて向かいの席に座る。
そして、本を一冊取った。
そんな行動が意外だったのか、僕とシェラはディジーを見つめた。
見つめられてることに気がついたディジーは、眉を歪める。
「なに?」
「いえ……」
「あぁ、そう」
冷たい返事をした後、ディジーは本の文字に視線を落とす。
それを見て、シェラはため息を漏らした。
「はいはい」
そう小さく呟き、シェラも本を一冊手に取る。
そして、僕の横に座って本を開いた。
僕とディジーは、シェラを見つめる。
シェラも、見られることに気づいたのか、本に視線を落としながら口を開く。
「なんだよ」
「いや……別に」
僕はそう言って、視線を本に戻した。
この空間は静寂に包まれ、本をめくる音だけが響く。
いつか来る、有益な情報を目指して……。




