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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
第五章:情報

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62/80

Episode:4 疑念と前進

 ――ディジー


 あの赤髪の少年、ルイン。

 黒い鱗を生やした蜥蜴人(リザードマン)、シェラ。


 その二人と別れた後、アタシは校舎内をただ歩いた。

 情報収集を提案したのは他でもないアタシだが、どうにも乗り気にはなれなかった。


 眼前にぶら下げられた新たな知識。

 空が白く染まる時、世界中の生物から記憶が失われる。

 ルインを除いて……。


 この話が本当かどうか、未だに信じ難い。


 校舎を歩くたび、背の高い靴がコツコツと床を打つ。

 アタシは、ため息を漏らして立ち止まった。


 褐樹人(ダークエルフ)は閉鎖的な種族だ。

 他種族との交流はほぼなく、お互いに差別的な部分が多い。

 冒険者をして、世界を見たから、この考えが間違いだと気づけたが、それでもまだ疑念が残っていた。

 種族としてもそうだが、ルイン……あの少年の話は奇妙な部分が多い。

 世界を繰り返しているのが事実と仮定した場合、話に穴が多すぎる……。

 そう考えてしまうと同時に、黒曜銀級を持つ冒険者、シェラの言葉が真実にも聞こえてしまう。


 アタシは今、分岐点に立たされているのだと……そう感じた。

 眼前には、逃したら一生知ることのない知識。

 もし、この機会を逃したら、アタシの探究心を否定することになる。


 アタシは自身の外套をめくり、中に収納されたいくつもの魔具を見つめる。


 旅をしながら、世界中から集めた魔具の数々。


 探究心に駆られた、攻撃魔術の使えない魔術師の外套には、自身の弱さを隠すように、魔具がぶら下がっている。


「はぁ……」


 アタシは、どうすればいいのか……。

 

 今まで、迷うことは無かった。

 アタシは、アタシの知識が絶対に正しく、間違いはないと、自負し、信じてきた。

 倫理的で、論理的で、理屈的。


 だが、その全てが通用しない現象の前では、足が止まってしまう。

 探究心に従い、足を踏み出すのは、きっと難しくない。

 だが、その一歩が、恐ろしく重く、大きい。


 アタシは、窓の外を見つめ、ため息を漏らす。

 直後だ。


(――お前の好きにしろ)


「わかってるさ」


 頭の中に声が溢れた。

 呪いにも似た声だ。

 魔術に支配されているのだろうか……死霊術師でもないのに。

 

 いや、きっと、アタシの内面を代弁してくれているんだ。

 相談役にはうってつけだろう。


 アタシは歩き出し、近くにいた冒険者に声をかける。


「ちょっといいかい?」


「はい? なんですか?」


 人間。

 黒曜ですらない。

 人選を間違えたか……声をかけたからには、話すべきだろう。


「空が白くなる現象を知っているかい? 知識としてでも構わないんだ」


 アタシがそう話すと、人間の冒険者は首を振った。


「そうかい、ありがとね。引き留めて悪かった」


 そう言って、アタシは踵を返す。

 悩むのは後だ。

 アタシは人を信じない……これまでも、これからも。


(進め)


 頭の中に声が反響する。

 

 あぁ、進むさ。

 アタシは知識を信じる。目の前にぶら下がった知識の山。

 これを逃す奴は、一生の恥だ。


 いざとなったら見捨てればいい。

 見殺しにすればいい。

 アタシは戦えない魔術師……召喚術師なんだから。

 囮は多い方がいい……。


 アタシは口角を鋭くあげ、次の人物に手を伸ばした。


「ちょっといいかい?」


 これが、アタシの一歩だ。

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